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空人は気ままに世界を歩む  作者: しんた
第三章 掛け替えのないもの
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金の魔力

 どこを突っ込めばいいのか分からないが、まずは眼前に詰まれた金貨だな。

 いや、それも一昨日彼から聞いた話でおおよそは察しがつくんだが。


「それで、この金貨の山はなんだ? ローベルトさん」

「お前さん達が捕縛した盗賊団の報酬金じゃな」

「いや、それは分かるんだが、さすがにこれは……」

「多いかの?」

「俺達の価値観ではそうだな」


 ディートリヒはそう話すが、それは全員同じ気持ちだった。

 むしろ俺には多過ぎると認識してしまうほどの量に見える。


 積まれた金貨は10枚が4列と端数の8枚が5人分。

 ようするに、2400万ベルツもの大金が目の前に置かれていた。


「まぁ、5等分でも480万ベルツじゃし、高額だと思われてもしかたないの」

「その理由も、ランクA冒険者と白銀剣が関与していることだと理解はできますが、さすがに多過ぎるのでは?」

「いいや、トーヤ殿。ここに白銀剣の報酬は入っとらんよ。

 それはそなた達が今も大切に保管しとるのじゃろ?

 あくまでもこの金額は盗賊団を捕縛した報酬となる。

 トーヤ殿が言うようにこれだけの大金となったのも、ランクA冒険者がふたりも倒されたことだけでなく、もうひとつ大きな理由があっての。

 ベッケラート氏を殺害したことが、懸賞金を跳ね上げた一番の原因なんじゃよ」


 つまりは懸賞金を出しているのが、彼の所属するシェルツ商会だということだ。

 正直なところ、この金額でも少ないくらいだと判断していたらしく、時間が経てば経つほど金額を上げていくつもりだったと聞いているそうだ。

 それだけの重要人物だったことは理解できるが、実際にはあまりいい傾向とは言えないのだとローベルトは難しい顔で答えた。


「懸賞金目当てで冒険者達がこぞって盗賊団を潰そうとする。

 そのまま返り討ちになることも十分に考えられた。

 たとえランクAをふたり倒したと知られていても、報奨金の額に目を曇らせる可能性が非常に高かったと言わざるをえない。

 それは時として人の心を惑わし、冷静な判断力を失わせる。

 そうなれば、その者達の結末は目に見えておるよ。

 ……まこと恐ろしく、おぞましいものじゃよ、金の魔力というものは」


 とても寂しそうな声色と瞳で窓の外を見つめるローベルトは、だからこそ早期決着ができてホッとしたと話を続けた。

 今回の件は、ある意味で非常に危険なことになっていただろうと彼は言う。


 しかし、ディートリヒ達に万が一のことが起きたと確認された場合、懸賞金は撤回され、大規模な討伐隊での殲滅戦になっていた可能性が高いと話した。

 もしそうなれば、のちに発見される白銀剣の情報は闇の中に消え失せてしまう。

 それはつまり、盗み出した輩の情報が掴めず、捕縛できないという意味になる。


 もちろん捕まえた盗賊共がまったく知らない可能性も十分あるだろう。

 それでも、たとえわずかな望みであろうと、何かに繋がれば重畳だ。


「あの剣は、とても大切なものだからな」

「……そうじゃの、フランツ。

 レリアの白銀剣だけでも無事に戻って良かったわい。

 ……犠牲者も多く出てしまった凄惨な事件じゃが、それだけは救いじゃの……」


 そう言葉にした彼の瞳は、とても寂しそうな輝きを灯していた。

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