華がない
話に花が咲き、旅先での詳細を伝えていると、ディートリヒは話した。
驚いたというよりは呆れたように思えるその口調に、懐かしさを感じた。
「……にしても、かなりすごい旅をしてきたんだな、トーヤは。
魔物の卵から孵ったのがピングイーンの、それもフィヨ種ってことに安堵できないほどフラヴィは凄まじい力を内包しているし、伝説のフェンリル種のブランシェに大樹から生まれたリージェと龍種のレヴィア、ランクSのリーゼル……いや、今はリゼットだったか。
多種多様な趣味嗜好を持つのなら分からなくはないが、随分と一般的にはかけ離れた仲間が集まっているんだな……」
「あたしとクラウディア姉もいるよ」
「あ、あぁ、そうだな。
あとマンドレイクの女性もいるんだよな。
会ったことはないが、まさか人語を話す存在だとは思ってなかったよ。
まぁ、人の姿でいられるふたりにも驚きだが、トーヤだからな。
それもきっと"空人"特有のスキルなのかもしれないな」
色々と特殊に思える家族しかいないが、とりあえず人族はエルルとリゼットにクラウディアか。
……まぁ、一流商家の娘に貴族令嬢、女神を僭称する記憶喪失少女と、中々バラエティーに富んだ家族なのは間違いないが。
「それに奴隷を開放させらるなんてな……。
"空人"ってのは、本当に凄まじいスキルを持つんだな……。
それも気配を読めるトーヤだから可能なのかもしれないけどよ、普通に歩いてるだけで集まってるようにも思えるよな」
フランツの言葉にしたものを、何度か考えたことがある。
その理由が"空人"の性質なのかは答えられないが、少なくとも性格が似通っているからこそ自然と集まったんだと俺は思いたい。
「それも一期一会なんだろうな。
だからこそ人は、その時その一瞬の出会いや縁を大切にしないといけない。
もう二度と会えないかもしれない偶然の瞬間はきっと誰にでも訪れるもので、それをどうするのかも自分次第なんだと思うよ。
こうして性格が似た俺たちが自然と旅をしているのも、"運命"なんて言葉じゃ表現したくないな」
それはきっと、人ではない何ものかに巡り会わされたと思えるものだからな。
俺はそれを鵜呑みにしたくないし、信じたいとも思えなかった。
「俺たちは、俺たちの意志で行動を共にしているからな。
"誰かに巡り会わされた"なんて、俺は信じないよ」
「……強いな、トーヤは。
みんな同じ気持ちだからこそ、トーヤと一緒にいるんだろうな」
何かに納得したように、ディートリヒは静かに答えた。
それはきっと彼らと同じものなんだ。
馬が合って、一緒にいるだけで笑顔になれる。
ただ、それだけなんだと、俺には思えた。
「女の子ばっかりってのはどうかと思うがなッ」
「……おいおい。
なにも泣くことはないだろ、フランツ……」
「……なぁ、ディート。
……なんで俺たちには、"華"がないんだ……」
「男4人でも楽しいからいいと僕は思うんですが」
机に突っ伏しながらへこむフランツにライナーは答えるが、やはりというか、俺の想像していたことは間違いじゃなかったようだ。
「お前はいいよな!
酒場のお姉さんとか! 雑貨屋のお嬢さんとか! 食材屋のお姉さんとか!
目ぇ離すと奇麗なお姉さんとお話してるじゃねぇか!
この間なんて、通りすがりの未亡人に声かけられてたの知ってんだぞ!」
「そ、そんなに泣かないでくださいよ。
あれは少しお話をしてただけで、そういった意図はないんですから」
ライナーは表情からも優しさが表れてるし、何よりも冒険者とは思えないほどの気品が感じられる。
女性に声をかけられるタイプだろうとは思っていたが、本当にそうらしいな。
「フランツさんも何度か冒険者の女性に声をかけられてるじゃないですか」
「違うんだよ!
そうじゃないんだよ!
俺は"腹筋の割れてないおねいさん"がいいんだよ!!」
……そういった女性冒険者ばかりじゃないとは思いながら、俺はバルヒェットで会ったシャンタルさんを思い出していた。
あの人は魔術師だったし、フランツの言うような鍛え方はしてないんだが、いかんせん性格が恐ろしい女性なんだよな……。
それに20階層で会ったバルバラさんたちも、肉食系だったな……。
そういえば、鍛え抜かれた腹筋をしていたような気がする。
「……いいか、ライナー。
大半の女冒険者は、男を喰らおうと狙ってる野獣どもだ……。
ひとたび好意的に思われれば、骨までしゃぶり尽くされるぞ……」
「またフランツさんは……。
素敵な女性が多いじゃないですか」
「……その後、ライナーの姿を見た者はいなかった……」
「不吉なこと言わないでください……」
仲がいいな、相変わらず。
羨ましいとも思えるよ。
まぁ、俺には的中率98%の占い結果があるからな。
それを聞けばフランツも、なんとも言えない気持ちになるだろう。




