本当にいいチームだよな
「――って、わけでな。
俺たちはデルプフェルトからバルヒェット、ブロスフェルトに進んだ後はヘンネフェルスへ向かったんだよ」
「そのままバウムガルテンに真っすぐ進んだのか?」
ヘンネフェルスから迷宮都市へ続く街道は魔物も弱く、見通しもいい。
頻繁に憲兵が行き来することもあって、治安もこの上なく良好と言えるはず。
これも大都市と繋がっているからこそではあるが、危険人物が襲ってこないのはありがたい。
恐らくだが、これがバウムガルテンへ向かう最短ルートになるだろうな。
俺たちは少々寄り道をすることになって森を抜けたが、街道を使う旅は安全だ。
盗賊に遭うことも稀だし、強い魔物は憲兵隊が定期的に間引いてると聞いた。
森での採取や捜索依頼でもなければ、そう向かう場所でもないんだよな。
しかし、彼らも最短で迷宮都市へ向かったわけでもないようだ。
それもまた冒険者の醍醐味と言えるのかもしれないが。
「僕たちはブロスフェルトである冒険者に会いまして、配達を依頼されたんです。
彼らは新人の頃にお世話になった方々で、信頼のおける僕たちにと強くお願いされましたので」
なんだが只事じゃない空気を感じるが……。
そう思っていたが、どうやら違うらしい。
ライナーの代わりにエックハルトが答えてくれた。
「託されたのはお薬なんです。
それも希少価値の高い薬草の根を煎じたもので、時期を考えると手に入れるのが相当難しいと窺いました。
何とか入手には成功して調合師にも作っていただけたのですが、仲間が重めの風邪になり動けなくなったのだとか」
「なんでも娘さんが少々厄介な病気にかかってな。
その薬じゃないと効果が出ないそうだ。
幸い命の危険はないが、それでもかなり辛い生活を強いられるらしい。
場所もレーヴェレンツだったから近いし、そう時間もかからない。
俺たちも依頼を受けることに異論はなかったんだが、フランツが思いのほか感化されちまってな。
涙と鼻水が止まらない状態で"俺らに任せろ!"、なんてことがあったんだよ」
ディートリヒは笑いながら答えるが、まるで目に浮かぶようだった。
反論するようにフランツは、なんとも彼らしさが感じられる言葉を口にした。
「だってよ! 可哀想だろ!
幼い娘さんが苦しんでるのに動けず、手には薬だけがあるなんてよ!
おまけに配達を依頼すれば出立するだけでも準備に時間がかかる!
なら、俺らが届けなきゃなんねえだろうが!」
「あの時のフランツさんは男気を感じましたね。
"だったら俺らが最速かつ確実に届けてやんぜ!"、なんて。
あんなにも早く答えられるなんて、僕にはできませんよ」
「まぁ、それがフランツのいいところだからな。
時々無茶もするが、こいつの出す答えは大抵間違いじゃない。
さすがに危なっかしすぎてリーダーは任せられないが」
「なに言ってんだよ、ディート!
このポジションだからこそ自由にいられるんだぞ!」
満面の笑みで答えるフランツに、肩を落としながらディートリヒは答えた。
「……それじゃ俺が自由じゃないみたいに聞こえるが……」
「……面倒事ばかり任せてしまっていますからね……」
「……それについては私も申し訳なく思います……」
「気にすんな!
こいつに任せときゃ、大概は何とかなるって!」
「……いちばん面倒事を引き込むお前が言うなよ……」
げっそりとしながら話す彼は、思っていた以上に苦労しているようだ。
それも楽しそうにしているみたいだし、本当にいいチームだよな。




