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空人は気ままに世界を歩む  作者: しんた
第十四章 空が落ちる日
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いい経験ができたと

「では、失礼します」

「案内ありがとう、ゼルマ」


 ぱたんと静かに扉が閉じられるも、胸に張り付く子供たちから意識が外せなくなっていた。


「随分心配させた。

 でも、ようやく落ち着けると思うよ」

「ほんと?」

「あぁ」


 服を掴む小さな両手が、かすかに震える。

 フラヴィには本当に怖い思いをさせてしまった。


 これからはもう、ずっと一緒だから。

 必ず俺が傍で護るから。


 そう強く誓いながら、フラヴィを優しく抱きしめた。


「ふたりにも心配をかけたな」

「……ううん。

 トーヤ、すっごく頑張ってたの、見てなくても分かるから……」

「ごしゅじんが無事で、よがっだ……」


 額を腕につけながら静かに答えるエルルも小さく震えていた。

 ずびずびと鼻をすするブランシェにも、随分と不安にさせてたんだな。


「レヴィアにも負担をかけた。

 子供たちを護ってくれてありがとう」

「我らは家族なのだから気にすることはない。

 それに今回の一件は、我らにも思うところができた。

 しっかりと改善し、次は(ぬし)に不安を残さぬよう努めるよ」

「リージェも助かったよ。

 逃亡者を出さずに済んだ」

「いいえ。

 お役に立てて良かったですし、いい経験になりました」


 笑顔で応えてくれるふたりには、助けられてばかりだな。

 レヴィアには的確なアドバイスをしてもらえることにも感謝してる。

 年長者であるふたりがいると、俺の心にも随分と余裕が生まれているからな。


「リーゼルもお疲れさま。

 急な頼み事だったけど、手伝ってくれて感謝するよ」

「みなさん無事に依頼を達成できて良かったです。

 それに今回は、とても勉強になりました。

 自分に足りないもの、求めるものを見つけられた気がします」

「修行してるだけじゃ意外と気づかないことも多い。

 実戦の中で見つかったものは、唯一無二の価値がある場合もあるんだ。

 その感覚を大切に育てていくといいと思うよ」

「はい」


 俺にも経験がある。

 でも、俺の時はそれが何かを掴めずに何度も手放したからな。

 その教訓を彼女にも言葉で伝えられたらいいんだが。


「……リーゼルも前とは別人なほど強くなった。

 ヴァイス君の肉体改造計画法に興味津々」


 ……嫌な言い方をする。

 突っ込まないからな。


「俺に頼らずとも、シュティレもルーナも相当強いよ。

 敵が厄介なアイテムを持っていただけで、実力的には圧倒していた」

「なはは。

 今回アタシたちはあんまお役に立てなかったっすけど、次はきっとヴァイスっちを心配させないくらい強くなって再会できると思うっす!」

「……うん。

 同じ轍は、踏まない」


 笑顔で答えるふたりだが、瞳の奥には燃え滾るような鋭さがあった。

 たったひとつのアイテムが揺らがないほどの力量差を覆した今回の事件は、彼女たちの心に火を灯す切欠になったようだ。


 もう少しだけ遅れていたら、どうなっていたかは分からない。

 並の冒険者なら引退していた可能性すらある大怪我を負ったルーナも、自分に足りないものがはっきりと見えたのかもしれない。


 しかし、彼女たちは鍛錬の日々を過ごしていたはず。

 その先に繋がる道は険しく、並大抵のことでは到達できない領域になる。

 まさしく限界を超えることが求められる彼女たちだが、俺は心配していない。


「研鑽を続けるふたりの努力は、必ず実を結ぶ。

 ふたりが目指そうとしているものは間違いじゃないし、ふたりなら必ず到達できると信じてるよ」

「……なはは。

 ……なんか、涙出そうっす……。

 ありがとう、ヴァイスっち……」

「……ヴァイス君、ありがとう……」


 目尻に涙を溜めるふたりだが、実戦経験は俺よりも遥かに上だ。

 "できること"といった見方をすれば、圧倒的に差が開いてるだろう。


 今回の一件は色々と考えさせられる出来事が多かった。

 それでも、いい経験ができたと答えられると思えた。

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