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空人は気ままに世界を歩む  作者: しんた
第十四章 空が落ちる日
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事後報告

「――以上、計35名を拘束、仕込んだ毒を完全に無効化したのちに憲兵隊へ引き渡しました。

 関係者は全員、自決防止の対策を済すませて投獄されています。

 暗殺ギルド所属の実行犯9名、構成員が15名です。

 つまり――」


《――半数どころか、約7割が連中に牛耳られていた、ということか……》


「はい。

 バルリング、レーヴェンタールの聖堂も拠点として使われています。

 それと友好国、特にこの国と関係が深い商国と連邦、共和国にも大規模な組織が結成されている趣旨の文面を確認しました。

 これに関しては書類を精査後、憲兵隊から報告される手筈になっています。

 この町にはサンマレッリ大聖堂以外の聖堂、および教会に拠点はないようです。

 これに関しても精査の上、逐次報告が届くかと。

 バルヒェットのハンネス司祭とコルヴィッツ神父、ブロスフェルトのロンメル司祭とは面識がありますが、関係性がないことからすべてが敵だとは思いません。

 ……それでも、看過できない最悪の状況であることは変わりませんが」


 凍りつくような張り詰めた空気の中、俺は報告を続ける。

 今回の一件は、間違いなく最悪の事件だとしか思えなかった。


 その先に訪れるだろう危機を考えると憂鬱になるほどに……。



 あれから大聖堂の2階と3階にいる人物を捕縛した俺たちは、外にいる憲兵と協力して事態の収拾に努めた。


 予想以上の検挙人数となったこと、場所が大聖堂だったことを配慮し、なるべく人目につかないよう深夜に馬車を使って連行したが、大通りに面している上に錚々(そうそう)たる顔ぶれのため、情報統制をしなければ明日の新聞の一面を飾ることは間違いないだろうと思われた。


 悪党どもは投獄され、現在も続く憲兵たちの捜索からは続々と新情報が届けられている。

 いずれは教会以外の潜伏している拠点や暗殺者についても明らかになるだろう。


 しかし、それだけで済む話では決してない。

 今後予想される影響は計り知れなかった。


《……想定はしていたが、これは文字通りに世界の危機だね……》


 重々しい口調で答えるヴィクトルさんだった。

 だがそれでも報告を続けなければならない。


「各都市内に置かれた拠点も粗方判明しました。

 アダルベルト、ラングハイム、リンデンベルグ、アーベントロート、ヘルツベルグ、そして――」


《……首都(ここ)、か……》


「はい。

 それを感付かせないほど溶け込んでいる、ということでしょうね。

 恐らくは相当前から計画されていたと推察します。

 当然、世界各国の都市と大きめの町にある教会の名前が書かれたリストも手に入れましたが、これに関しては人の命を奪うような暗殺者ではなく構成員を送っているようです。

 情報のすべてを鵜呑みにはできませんが、少なくとも簡単には手がつけられないほど世界全体に浸透しているのは間違いないでしょう」


 教会に敵が入り込んでいるのなら、それは由々しき事態だ。

 サンマレッリ大聖堂を制圧するまで、俺たちはそう思っていた。


 それどころではない(・・・・・・・・・)

 最悪の想定が現実になってしまった。

 そして今回の一件で、狙いがこの国であるのは間違いない。


 暗殺ギルドの実行部隊とも言えるほどの危険人物がこれだけ多くこの町に固まっている理由は、この自由都市同盟を内部から揺るがし、戦争時に行動させないための布石とする腹積りなんだろう。

 首都にも同規模か、それ以上の暗殺者が潜伏している可能性が非常に高い。


 もしその恐ろしい推察が的中してしまえば、この国は戦争に巻き込まれることを意味すると思えてならなかった。


《……テレーゼ。

 大至急資料を精査し、最優先で報告をしてほしい。

 各国の首脳陣に詳細を伝えるのはそのあとだ》


「かしこまりました」


 ヴィクトルさんたちもそれを十分に理解しているのだろう。

 そう言葉にすることしかできなかったのだと思えた。


 つまるところ、ここで一手も二手も遅れかねない。

 足踏みをしている時間的余裕はないし、すぐにでも行動するべきだ。

 しかし、下手に動けば連中の情報網に引っかかり、追い込まれることになる。


 一見、八方塞に思えるが、本拠地を潰せたのは良かった。

 来るべき時に備え準備を進めていた矢先に阻止できたんだからな。

 バウムガルテンに限ってのことではあるが、得られるものも多かったはずだ。


 まずは国内にある連中の拠点すべてを早急に潰す必要がある。

 連絡用水晶がなければ他国への知らせを遅らせられるが、それも時間の問題だ。

 結局、頭を潰さなければ(・・・・・・・・)永遠と戦いが続くかもしれない。



 ……これ以上は、俺の出る幕じゃない。

 ここまでに、なるだろうな。


「……これから先は家族と相談して決めたいとは思っていますが、それも難しいと先に謝らせていただきます」


《いいや、ヴァイス殿が謝る必要なんてないんだよ。

 本来であればギルドが処理するべきことにも手を貸してくれた。

 それでも、ヴァイス殿は大切な家族に専念してほしい》


「……感謝します」


 ……本当に、頭が上がらない。

 ヴィクトルさんはすべてを理解した上で言葉にしてくれた。


 現状では喉から手が出るほど欲しているはずだ。

 形勢を立て直すどころか、決定的な力になれる俺の協力が。


 それでも彼は言ってくれた。

 たとえ言葉にしなくても、それくらいは俺にだって理解できる。


 "大切な家族のために、その力を使ってほしい"、と。



 このまま力を貸し続ければ、そう遠くない未来に戦争が勃発する。


 "だからこそ、俺の力は借りられない"と彼は言ってくれた。

 それは、幼い子供たちを戦争に巻き込むことと同義だからだ。


 戦争になれば、俺たちはこの国を離れるだろう。

 たとえ絶対的な力を所持していたとしても、その先に待つのは大量虐殺だ。

 数十、数百ならまだしも、数千、数万ともなれば俺も加減する余裕がなくなり、すべてを武力で薙ぎ払うことになる。

 もしそんなことに加担すれば家族に合わせる顔がないのはもちろん、子供たちに示しがつかなくなってしまう。


 何よりも、あの子たちは俺を慕ってくれている。

 俺が戦争に関われば、子供たちは自分の意思で俺と同じ道を歩むだろう。

 ……大切な家族を護るために、別の大切な家族を消す道を選んでしまうだろう。


 そんなことは絶対にさせられない。


 リージェもレヴィアもリーゼルも、穏やかな日常を望んでいる。

 少人数で世界に喧嘩を売るわけにはいかないし、させたくもない。


「……感謝、します……」


 だから、俺にはこう言葉にすることしかできなかった。

 繰り返しながら言葉にすることしか、俺にはできなかった。

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