文字通りの意味で
報告を続けるたびに緊張が走る。
正直、俺には夢物語に思えてならない。
しかしこれは現実で、今も進行中のはずだ。
「――以上です。
現在ここには俺とルーナ、彼女の仲間のシュティレが同席しています。
さすがに判断しかねる事態のため、報告させていただきました」
《……それが何を意味するのか……ヴァイス殿は、理解しているのかい……》
「そのつもりです。
文字通りの意味で最悪の事態としか思えませんでした。
恐らくは決起までそれほど時間はないと推察します。
本拠地の捜索、ならびに工作員と暗殺者を捕縛し、情報を手にするべきかと」
《……いや、しかし、それは……》
これほど言い渋るヴィクトルさんは初めてだ。
それも仕方ないと分かっているが、そうも時間をかけられない。
同じ思いのルーナは俺の代わりに続きを話してくれた。
「グラマス、捕まえた暗殺者は昏睡させて牢に放り込んであるっすけど、現状では連中の本拠地を即刻潰しておいたほうがいいと思うっす。
これだけ大規模な作戦を実行するともなれば、それなりに時間は必要っす。
今日明日の話じゃないと思うっすけど、すべては憶測の域を出ないっす。
それも含めて正確な時期を掴み、すぐに動くべきだとアタシは愚考するっすよ」
「……先手を打たなければ甚大な被害を被る。
今すぐにでも行動したほうがいいと、私も思う」
しばらくの時間を挟み、考え続けていた彼は口を開いた。
それはいつも冷静なヴィクトルさんとは違う、緊張を感じ取れる口調だった。
《……本拠地なら情報も多く掴めるはず。
幸い、それぞれの町周辺に仲間がいる。
情報を最速で届ければ優位に立てるだろう。
だがそれも、この国に限ってのことだ。
これほど大規模な作戦ともなれば、各国の首脳へ報告をする必要がある。
しかし、"間違いでした"では後々大きな問題にもなりかねない。
確証が欲しいが、作戦に参加できる人数も限られるのではないか?》
確かに今すぐにでも行動をするのなら、相当限定される。
それもただ強いだけじゃ参加させられない非常に厄介な案件だ。
どんな状況でも冷静さを保てる精神力と確実に作戦を完遂できる実力、さらには可能な限り気づかれることなく行動する必要があるはず。
それを可能とするのはルーナとシュティレ以外、ひとりしかいない。
「リーゼルを連れて行きます。
ですが、あくまでも参加は彼女の意思に任せます。
ルーナたちの仲間を待つことも考えていますが、その場合は合流に少し時間がかかるそうです」
「カメリア姉がいれば手伝ってくれるんすけど、2週間前にヘンネフェルスへ向かっちゃったっす」
「……今も滞在していれば参加してくれる。
でも到着まで、最低でも4日はかかる」
情報を聞き出した時にも話し合ったが、それは現実的ではないと判断した。
ならば、この国にいるランクS冒険者数名に頼むよりもリーゼルにお願いしたほうがよほど短時間、かつ確実に制圧できるだろう。
残念ながら、手加減を知らないレヴィアとリージェは連れて行けない。
かなり目立つ行動をするから、連中に逃げられる可能性が高い。
ふたりには子供たちのことを頼むのがいいだろうな。
……いや、リージェは近くまで連れて行く必要があるか。
今回はもっと離れる可能性があるから、なるべく近くまで連れて行ったほうがいいだろう。
俺を中心としてしか行動できないことが、結構なデメリットになってるな。
問題は牢屋に放り込んだ暗殺者が戻らないと連中に判断されることだ。
そうなれば証拠となるものはすべて葬られ、この町から姿を消すだろう。
ここで取り逃がせば最悪の場合、大量の死者を出すことになる。
それだけは、絶対に避けなければならない。
すべての関係者を確実に捕縛する必要がある。
「ヴィクトル様、敵の狙いは内部からの破壊工作かと思われます。
混乱に乗じて進軍する可能性がある以上、対応を誤れば国が滅びるでしょう。
ですが、恐らくこの国は3番目だと私は推察します」
"敵"とテレーゼさんは言葉にしたが、それも俺たちはもう確信に至っている。
だからこそ、その名を軽々しく言葉にできない。
できないからこそ本拠地を捜索し、証拠を掴む必要がある。
《対応策を検討したいところだが、これには時間がかかりすぎる。
まずはバウムガルテンにある本拠地から情報を入手してもらいたい。
内容如何では作戦を大きく修正しなければならないどころか、世界中を巻き込む最悪の事態に発展する可能性が高い。
……ヴァイス殿にも是非、力を貸していただきたい》
「わかりました。
リーゼルの了承を得られるなら4人となります。
正面、両側面、地下と同時に調べられるでしょう。
まずは関係者と推察できる者たちをすべて無力化し、のちに大規模な取調べを憲兵と冒険者ギルドにお願いします。
まったくの無関係な者もいると思いますが、詳細を話せば理解してくださると思いますので、まずは捕縛を最優先に制圧したいと思います」
《かまわない。
それも私が責任を負う。
少しでも挙動が怪しければ躊躇わずに捕縛してほしい。
……非常に危険な任務になるが、どうかよろしくお願いする》
悲痛な声色が耳に届いた。
どうなるのか分からない場所へ少人数で向かうんだ。
もしかしたら、暗殺者が大量にいるかもしれない危険すぎる場所を。
失敗は許されない。
何よりも確実に生きたまま捕らえる必要がある。
条件は厳しく、作戦参加人数も少ない上に準備もままならない。
そんな状況下でも確実性を求められる今回の一件だが、それでも俺たちは成し遂げなければならない。
これは、パルヴィアに住まう2000万人の命がかかっているといっても過言ではないし、現実的にはそれ以上の悲劇が起こりうる可能性を秘めている。
相手は巨大組織。
総人数は不明で手練も多いだろう。
確実に完遂すると断言できないほどの危険な任務だ。
それでも俺たちは、関係者の全員を捕らえなければならなかった。




