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空人は気ままに世界を歩む  作者: しんた
第十四章 空が落ちる日
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懐かしい気持ちに

 すとんと眼前に降り立つひとりの斥候。

 とても眠たげな表情をした20代前半の女性で、灰色の髪が印象的だった。


 速度を重視した軽装、腰にはダガーと投擲用のナイフか。

 スカウトというよりも特殊任務に就く軍人みたいな格好だな。

 見た目や声色からはルーナと同世代くらいの年齢だろうか。

 どことなく彼女と雰囲気や気配が似ている気がした。


「……呼んだ?」

「呼んだっす。

 眠たそうっすね」

「……眠い。

 ……でも、呼ばれた理由、何となく分かった」

「この状況を見ただけで分かったのか?」


 3人の男が地面に転がり、残りの3人は真っ青な顔をしながら体をがたがたと震わせている状況は、中々衝撃的だと思うんだが……。


 そんな素朴な疑問に、彼女は短く答えた。


「……付き合い、長いから」

「なはは!

 こちら、任務に就かない時はいつも眠ってるシュティレ。

 冒険者ランクはEっすけど、実力は安心と信頼をお約束するっす!」

「な、なるほど。

 まぁ、連中の処理を頼むよ。

 ひとりなのに任せても大丈夫か?」

「……大丈夫。

 口笛ひとつで仲間がやってくる」

「あまり目立つ行動は取らないほうがいいと思えるが。

 特にこの周辺は人も限定されるし、ここからフードの男を含めて6人も連行するとなれば結構大変なんじゃないか?」

「……問題ない。

 この辺りは弱っちい連中だけしかいないから。

 雑魚……は可哀想だから、ここはあえて下魚(げざかな)って言う」

「それも大して変わらないが……」

「……下等で安くても、味は美味しい。

 それぞれのお魚に合った調理法でお料理するのがポイント」

「話、ズレてるっすよ」

「……ルーナはお肉派だもんね」

「そういう意味じゃないっすよ」


 ……大丈夫だろうか、この人は……。

 なんか、えもいわれぬ不安がこみ上げてきたが……。


「……大丈夫、問題ない。

 私の性格は任務とは別。

 そっちはしっかりするから」


 表情から読まれたか。

 一瞬だけわずかに鋭さを感じた。

 なるほど、この人もかなりの強者だな。


「こう見えて、シュティレはかなり強いっす。

 アタシと同等か、若干弱いくらいっすね」

「……ルーナより強い。

 私はやればできる子」


 自分で言うことじゃないぞ……。

 いや、これは彼女なりのジョークだろうか……。

 だが今の言葉にルーナは思うところがあったようだ。


「……聞き捨てならないっすね、今の発言は。

 アタシよりも強いとぬかしたのは、この口っすか?」


 眠たげな女性の頬を両手で掴み、口を広げるルーナ。

 ……なんか、幼馴染なんじゃないかと思える仲の良さだった。


「……いふぁい、ひゃへへ」


 しばらく遊んだ後、ルーナは頬から手を離した。

 両頬をなでながらシュティレは少し膨れる。


 何となくだが察した俺は、楽しそうにしている彼女たちへ言葉にした。


「ふたりは同郷の者なんだな。

 どことなく懐かしい気持ちになったよ」

「……一瞬でバレた。

 ヴァイス君、すごい。

 でも全部、ルーナのせい」

「アタシじゃなくてシュティレのせいっす。

 人のせいにしちゃダメっすよー」


 笑顔で楽しそうに話をするふたり。

 もっともシュティレの眠たげな様子はまったく変わっていないが。


 そんなふたりがどこか羨ましく思えた。


「ともかく、あの連中は任せるよ。

 情報を聞き出した後はこいつも任せたいが……」

「……いける。

 口笛ひとつで仲間を呼ぶから」

「ここからでも呼べるのか?」

「……私の特技のひとつ。

 それはもう、わらわらと呼べる。

 ヴァイス君も枕を高くして眠れるほどの超絶的な効果」


 嫌な表現をする……。

 ともあれ、これで問題なさそうだ。


「ヴァイス、さっきは助けてくれてありがとう。

 ほんの少しでも遅れてたら、アタシはこうしていられなかった。

 ……本当に、ありがとう」

「気にしなくていい。

 間に合って良かった。

 ただそれだけのことだ」

「ヴァイス……」


 泣きそうな顔のルーナとこちらをちらちらと見ていたシュティレ。

 何か言われるだろうなと思っていると、疲労感の出る言葉が耳に届いた。


「……寿引退、おめでとう。

 親友としてとても誇らしい。

 友人代表のスピーチは任せて」

「なんでそうなるんすか」

「……不束者ですが、末永くよろしくお願いします」

「それじゃシュティレがヴァイスっちのお嫁さんになっちゃうっすよ」

「……それでもいい。

 ヴァイス君はとてもいい男。

 この出逢いを逃すと、もう二度と逢えない。

 彼以上の旦那さまは世界中を探しても見つからない」


 深くため息をしたルーナは、疲労感の漂う表情で話を戻した。


「……まぁ、こんな子っすけど任せて平気っすから、アタシたちは尋問するっす」

「なるほど、だいたい分かった」

「……はじめての共同作業?」

「「違う(っす)」」

「……息もぴったり。

 仲の良さに、ちょっと嫉妬」


 しょぼくれるシュティレへ、同時に深くため息をついた俺たちだった。

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