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空人は気ままに世界を歩む  作者: しんた
第十四章 空が落ちる日
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歪みきったやつに

 周囲に別の暗殺者と思われる悪意は感じない。

 こちらを監視するような纏わりつく気配もない。


 どうやらこいつ以外の危険人物とそれに通ずる者はいないみたいだな。

 だからといって油断はできないが、ここは気色悪い無法者の気配を多数感じる。


 暗黒街に一般人はいないと聞いている。

 この周囲に感じる気配に悪意があり、そのすべてが犯罪者だ。

 こんな場所、徹底的に潰すべきじゃないだろうか。


 地面にへたり込む護衛者を一瞥もせずに素通りし、転がるフードの男を横目にしながらルーナに声をかけた。


「片付いたな」

「……そ、そうっすね……」


 何とも言えない、微妙な表情をしながら答えるルーナ。

 彼女からすれば色々と思うところもあるだろうが、それとは別に言いたいことができたようだ。


「ヴァイスっちが強いのは知ってるつもりだったっすけど、まさか空間を越えてくるようなとんでもない相手でも圧倒するとは思わなかったっす」

「暗殺のプロを相手にって意味か?

 それはつまり、影でこそこそ暗躍してるだけだろ。

 正面きって戦えるような連中じゃないから、毒や暗殺なんて卑劣な手段しかできないんだ。

 そんな精神が歪みきったやつに負けるなんて、最初から思ってなかったよ」

「……そう言いきれるのはヴァイスっちが強いからだと、アタシは思うっす……」


 前にも同じようなことを何度か言われた気がするな。

 だが、こんな闇討ちしかできない陰湿なやつには負けられない。


 大切な誰かを護りきってこその"武術"だ。

 それを体現できなければ今代の父を含め、歴代の継承者に顔向けができない。

 こんな連中の身勝手で家族が振り回されるのはごめんだからな。


 もちろん、勝利が当たり前だと思ったことはない。

 何事にも例外はつきものだし、相手を考えれば油断なんてできるはずもない。


 現に毒を使うことで勝率を上げていた。

 その対応ができなければ、俺でも負けていた可能性はある。


 それでも俺は、こんな連中に負けることは許されないからな。


「……さて、と。

 そろそろ尋問するか」

「それはいいっすけど、あの不細工な顔で転がったまま気絶してる馬鹿と、今も生まれたての子馬みたいにぷるぷるして立ち上がれない男どもはどうするんすか?」

「正直、俺はもう関わりたくないのが本音だが、そうも言っていられないか」

「ならアタシの知り合いに任せればいいっす」


 ぴゅいっと指笛を鳴らすルーナ。

 器用なことをするんだなと思っていると、ひとつの気配がこちらに向かっているのを確認した。


「500メートルも届くのか、指笛の音ってのは」

「本気で音を出せば1500メートルほどは届くっすよ。

 かなりうるさいから鳴らしたりできないっすけど。

 ……っていうか、そんな遠くまで気配読めるんすか……」

「迷宮で随分修練を積んだからな。

 気配だけなら800メートルは感知できるぞ。

 さすがに敵か味方かの区別はまったくつかないが」

「……ぉぉぅ……」


 どこから出たのか分からない声がルーナから漏れた。


 思えばダンジョンに入る前と比べれば相当鍛えられた気がする。

 そういった意味でも65階層のオーガ、オーグリス部隊は都合が良かったな。


 どうやらこちらを正確に特定できたようだ。

 恐らくはルーナと同じように気配を探れるスカウトだろう。

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