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空人は気ままに世界を歩む  作者: しんた
第十四章 空が落ちる日
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ずっと聞きたかったことが

 激情に駆られて男をぶちのめしたが、今後は鉢合わせすることもないだろうとヴィクトルさんは答えた。

 それだけの度胸があるとも思えないし、何よりも別の者を派遣して自分は椅子にふんぞり返るようなやつだろうと、若干の苛立ちを感じさせる声色で耳に届いた。


 恐らくは間違いないだろうと俺も思う。

 しかし、"気骨がない"かといえば否定せざるをえない。

 それはつまるところ、送り込まれる相手が限定されるはずだと予想できた。


 この町に連中の拠点があるとすれば、近日中に動きがあるだろう。

 あとはルーナに任せて報告を待つ形になるが、俺たちはできる限り"普通"を装う行動を取るべきだと彼は続けた。


「つまり俺たちは"町を散策ながらその時を待つ"、ということですね」


《無理に出歩く必要はないが、おおむねその通りだよ。

 迷宮に向かえば色々と面倒事も付き纏うだろうからね》


 俺が気にしていた"攻略組"冒険者のリーダーを指しているんだろう。

 少し聞いてみたが、どうやら人を見る目があるらしく、見つかれば高確率で声をかけられそうだ。

 未だ83階層をうろついてるみたいだし、強者を探しているはずだ。


 普段なら断れば済むが、今後厄介な相手と揉めるだけに標的とされる可能性も捨てきれない。

 この一件が片付くまでは迷宮へ向かわないほうがいいな。


 人質にされるほど弱い相手ではない。

 それでも、弱みを握られて利用されては問題になるからな。



 投獄された男は本日の深夜に解放する予定だ。

 意識が戻ってもその場にしばらく留めるのは、痛みで今よりもイラつかせることが目的らしい。


 護衛者4名も同時期に釈放される。

 しかし、その後どうなるのかは俺の知ったことではない。

 念のためルーナが信頼を置くスカウト3名を付かせる準備をしているそうだが、あくまでも男から離別した場合に限ってのことになるので、他国にいる以上そうはならないだろう。


《こんなところだろうか。

 あとは状況に合わせて対応を変える必要はあるが、なるべく本筋から逸脱させないように事を運んでもらいたい》


「大丈夫っす。

 そっちの部門は得意中の得意っすから」


 けらけらと笑う彼女に思うところはあるが、調査に関しては俺が口にするべきではない。

 むしろ彼女以外には任せられないほどの実力者だし、心配もいらないだろうな。


「そんでトーヤっち。

 ずっと聞きたかったことがあるんすけど」

「何だ?」


 珍しく質問されたが、時々ちらちらと向けていた好奇心を含んだ視線から大体何を言われるのかは予想がついていた。


「フラヴィちゃん、でっかくないすか?」

「……まぁ、気になるよな」


 テレーゼさんもデルフィーヌさんも気づいてたが、それよりも話すべきことがあったから先回しにしていたんだろうな。


 なるべくなら黙っておくべきことだとは思う。

 だが、これだけ力を貸してくれている人たちには嘘をつきたくもないし、言ったところで問題にはならない。


 それよりも俺自身が揉め事を起こしたからな。

 そっちのほうが遥かに気をつけるべきだと思えた。


 *  *   


「わぁ!

 なんて可愛らしい子なんでしょう!」

「これが噂のフィヨ種っすか。

 ピングイーンの中でも臆病って聞いたことがあるっすけど」

「行き交う人の中で慣れてもらったんだ。

 それ以降は俺も旅ができるようになったよ」


 ルーナはどこかそわそわしていたが、それ以外の疑問は感じないんだろうか。

 どうやらテレーゼさんだけが固まっているところを見ると、このふたりは柔軟性に富んだ人たちのようだな。


「……自分で言うのもなんだが、結構衝撃的だと思うぞ。

 俺も初めて見た時は凍りついたくらいだし……」

「あー、そういうのはもう大丈夫っす。

 トーヤっちなら、なんでもござれっすよ。

 深く考えるだけ無駄だと思ってるっす」

「私は考えても答えなんて出ませんし、目の前にいるフラヴィちゃんがこの上なく可愛いこと以外は何も気にならないです」


 ……すごいな、このふたりの順応力は。

 ぜひ見習いたいと思える特殊技能じゃないか……。


 両膝をついて手を広げる二人にちょこちょこと歩くフラヴィは、デルフィーヌさんの下へ向かった。


「くぅッ!!

 負けたッ!!」


 ……何とだよ……と突っ込んだところで、返って来るのは面倒な言葉に思えた。


 どこかラーラさんに似ているんだよな、ルーナは。

 自由奔放なところがそう思わせるんだろうか。


 デルフィーヌさんの膝に優しく乗せられたフラヴィは体を預けながらくつろぎ、その姿をとても悔しそうに、何よりも羨望の眼差しを向けるルーナだった。

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