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空人は気ままに世界を歩む  作者: しんた
第十四章 空が落ちる日
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迷宮の先

 まぁ、ルーナの話はいい。

 敵対しない以上こちらから手を出すことも、詮索することもしない。

 バルヒェット冒険者ギルドマスターであるフィリーネさんの下で冒険者を続けているらしいし、彼女の身元は保証されている上に実力も申し分ない。


 特に隠密行動が取れるだけで非常にありがたい。

 俺はしたこともないし、できる自信もないからな。



 だが91階層に来て、気になっていたことが正しかったと理解した。

 いや、考え自体は迷宮に潜ってそう時間をかけずに浮かんだことだが。


「91階層に降り立って最初の魔物と遭遇した時、これまで考え続けていた仮説が確信に変わったんです」

「……仮説?」

「はい。

 この迷宮が持つ全体的な難易度が低いため、その先があると」

「……100階層の先を意味してるのはさっきの話に繋がるから分かるんすけど、この迷宮の難易度が低いとはとても思えないっす。

 "攻略組"のリーダーはランクSの中でも相当の使い手の上、ランクSとAの実力者を3パーティーも結成して挑んでるんすよ……」

「最高のレイドを組んでも83階層を突破できないんだぞ、と言いたいんだろ?」


 俺の質問にこくこくと頷くルーナ。

 言葉で返せないくらい驚いてるみたいだな。


「それでも一対一ならルーナのほうが強いだろ?」

「……そりゃ、そういう自負はあるっすけど……」


 言いたくなる気持ちも分からなくはない。

 数パーティーを組んだほうが安全性は増す。

 それぞれのチームにリーダーを置き、冒険者全員に指示を出す指揮官が全体の戦況を見極めていれば、最悪の事態は極端に回避できるはずだ。

 指示に従う協調性さえあれば、報酬が減る以外のデメリットは特に感じない。


 しかし、あの程度の魔物相手にその人数でも攻略できないとなれば、ランクS冒険者の上位が持つ強さも高が知れている。


「81階層からアンデッド系モンスターが出現するのは知られていると思う。

 文字通り"不死"を意味する厄介な相手だと俺は考えたから攻略が進んでいないと思っていたが、実際に戦ってみてそうではないことがはっきりと分かった。

 当然、攻撃を当て続ければ倒せるんだから"絶対に死なない魔物"なんて存在しないだろうが、何か特殊な加護や付呪武器がなければ討伐に時間がかかると推察していた俺の読みは外れたよ。

 あれは武器と魔法耐性に加え耐久力も高いだけの相手で、それ以外は特に目立った能力は持っていなかった。

 中でも厄介なのはその数の多さとフロアの広さだが、それだけ(・・・・)だ。

 まるでどこかの小部屋で分裂するように増え続けているんじゃないかと俺は予想したが、その程度で足止めを食うほど俺たちは弱くないからな」


 正直、あの階層は早く抜けたかった。

 ブランシェが随分と険しい顔をしていたからな。

 かなりの負担が鼻にかかっていたはずだ。


「あれらはゴーレムのような"魔法生物"に近い存在だ。

 体内に流れ続けてる魔力の楔を見つけ、そこに攻撃を通すだけで簡単に倒せる。

 この際、魔法による範囲攻撃は意味をなさず、武器を使って急所を狙うように的中させなければ大きな効果はないが、これに関しては言葉で話したところで理解してもらうのは難しいし、何よりも言われて簡単にできるようなことでもないから、ここで話しても仕方がないか。

 好き勝手に移動し続ける場所へ斬撃を通す難しさはあるが、これもまともに修練を積んでいれば問題にはならない」


 そういった意味では、魔力の流れが見えればルーナでもアンデッドは一撃で倒せるようになるはずだ。


 持っていたボロボロの武器を振り下ろしても、あくびが出そうなくらいの攻撃速度しかない相手は練習にすらならないから、90階層まで止まらずにさっさと抜けたんだよな。


 あれならまだブラックスライムのほうが得られるものは遥かに多かった。


《……な、70階層には小隊規模の人数で叩かなければ倒せないほどの頑強なアイアンゴーレムがいるはずなんだけど、ヴァイス殿たちはたった7人でも苦戦することはなかったのかい?》


 例の"連絡用水晶"が落とす魔物だろうな。

 残念ながら俺たちはドロップしなかったが。


「子供たちは攻略に時間がかかりましたが、相手はただ硬いだけの(・・・・・・・)ゴーレムです。

 戦う前の作戦会議に時間をかけていた印象のほうが記憶に残ってますね。

 実際、あの子たち3人は討伐に3分くらいかかっていたと思うが?」

「そうですね、大体そのくらいだったと思います」


 あれも魔力の楔を断ち切るだけで大ダメージを与えられる魔物だ。

 フラヴィたちは4メートルもある大きさの敵へ攻撃が的確に当てられずに苦戦していただけで、あの時点でも身長差がない相手には問題なく戦えていた。


 そういった意味では、アイアンゴーレムにはいい経験をさせてもらったな。

 小隊は30人から60人です。

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