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空人は気ままに世界を歩む  作者: しんた
第十四章 空が落ちる日
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想定外

《さて、(くだん)の貴族について、話をしてもらえるかな?》


「かしこまりました」


 対面に座るテレーゼは、一拍置いて話し始めた。

 それはおおよそ一昨日聞いた内容と同じだが、その詳細はまだ知らない。


 問題となる男は、バウムガルテンでも最高級宿泊施設の最上階に滞在中らしい。

 それだけで馬鹿丸出しではあるんだが、気になる行動は一切なかったそうだ。

 これには俺も首を傾げざるをえなかった。


「我々もこの町の暗黒街へ向かうと予想していたのだけれど、男はもちろん、護衛者のひとりとして向かうことはなかったわ。

 宿を出ても買い物と食事をする程度で、これといった変化はありませんでした」

「無関係だと判断するのはいささか早計かと思いますが、ある意味不気味ですね」


《そうだね。

 あちらが動かない以上、裏に関わる者の存在も確認できない》


 ギルド側としても想定外だったようだ。

 真っ先に向かうことはなかったとしても、誰かと秘密裏に連絡を取り合う様子も見られず、肩透かしをくらったような気持ちにさせられたみたいだな。


 とはいえ、動かないなら動かないなりに対応策は取れると、彼は話を続けた。


《パルヴィアに向かった冒険者一行が話を進めるために行動中だ。

 現在、3割の大貴族から我々の申し出に快く賛同してくれた。

 このまま順調に行けば10日前後で過半数を超えるだろう》


 快く賛同、か。

 マルティカイネン家は敵を作りすぎたようだな。

 好機と見るや動き始めるのではなく、恐らくはその機会を伺っていただけか。

 そうでもなければ、これだけ時間をかけずに他国と協力はしないはずだ。


 当然これには、ヴィクトル氏の存在あってのこと。

 彼がいなければ詳細を調べた上で検討される案件になる。

 それほど狡猾で危険な相手という意味もあるだろうが、少なくともこれで動きやすくなったのも事実だな。

 好機を見誤るような者が、国を治める大貴族のひとりになれるわけがない。

 過半数を確実に取れると判断して動いてもらえたようだ。


《連中に連絡用水晶がない以上、バウムガルテンからパルヴィアに使者や手紙を送られようと本国に届くまでの時間を計算すれば、たとえ止められなかったとしても確実に間に合うと思ってもらっていい。

 とはいえ、我々もそれを黙って送り出させるつもりは毛頭ないが》


 強い口調で彼は答えた。


 それも当然だ。

 ここで取り逃がせば面倒事しか考えられない。

 仮に大貴族の協力を仰ぐのが難航した場合、時間をさらに稼ぐ必要が出る。

 マルティカイネン家を潰したいと強く考えていても、向こうの都合で動けないことも考慮した上でこちらも動かなければならないから、できるだけいらぬ心配事は排除したいところだ。


「それに関しては人員を割けるギルドにお任せしたいと思います。

 指輪の件もそうですが、俺は交渉と暗殺者の捕縛に集中させていただきます」


《かまわないよ。

 あとは指輪を渡してから相手の出方次第で対応を変えていくつもりだ。

 以前にも話したように、指輪を持って町を出ようとすれば捕縛し、暗黒街へ向かうのならばルーナに追跡させる》


 指輪を暗黒街で使うことも考えられる。

 当主のみが使えるはずのものをいったい何に使うのかは想像くらいしかできないが、もうひとつの可能性のほうが大きいかもしれないな。


「暗殺ギルドの本拠地、もしくはそれに通ずる者に提示して協力を仰ぐこともありうるのではないでしょうか。

 できればそうなる前に男の意識を俺へ向けられるようにしていただけると助かるのですが、現段階では難しいと思われます。

 それについてもギルドを頼ってもよろしいでしょうか?」

「そっちに関してはアタシの出番っすね!

 すでに暗黒街の2大犯罪組織のひとつに潜入済みっす!

 面が割れちゃうから両方はさすがに無理っすけど、それとなくヴァイスっちの話を情報屋に流すことで貴族が調べれば伝わるようなルートを確保してるっす!」


 ……それは、俺の情報がいずれ悪党どもに漏洩するって意味じゃないのか……。

 さすがに面倒すぎることになるのはごめんなんだが……。


 表情に出しながら考えたこともあって、ルーナは笑いながらそれに答えた。


「だーいじょーぶっすよ!

 ヴァイスっちはあくまでも"指輪を拾った冒険者"ってことと、"ダンジョン探索が楽しくて、指輪を返すことよりも迷宮を優先しすぎてた"って話だけっす!

 これだけなら犯罪組織の中でも笑い話で済む上に、目的の男が知れば激怒するって算段になってるっす!

 それに、これを機に犯罪組織をぶっ潰す計画も同時に進行中っすよ!

 些細な情報が残るようなことのないよう徹底的に壊滅させるっす!」


 そう上手くいくか、素人の俺に判断はつかない。

 自信満々の様子だし、ここはプロに任せたほうがいいだろうな。

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