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空人は気ままに世界を歩む  作者: しんた
第十四章 空が落ちる日
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するべきことを

 賑やかで楽しげな声が行き交う館内。

 大きめに造られた窓から差し込む光が人々を優しく包み込み、バランス良く置かれた観葉植物と美しい花を咲かせる鉢植えが華やかさを演出していた。

 優しい色で統一された木床(もくゆか)は落ち着きと、年季による味わいを感じさせる。


 ある者は食事を味わい、ある者は酒を豪快にかっ食らう。

 その姿はまるで創作物の中の世界だと感じながらも、視線を動かさずに黒衣の男は周囲を注意深く探る。

 少年にも思える若い男の横にいた女性は、静かに口を開いた。


「……問題はなさそうだな」

「あぁ。

 だが、警戒は必要だ。

 俺たちが戻るまで、子供たちを頼むよ」

「分かった」


 黒衣の男と話した20代前半の女性は、小さな子供ふたりと大人の女性ひとり、なりたての冒険者と思われる少女の4名を連れて男から離れ、左側に造られた飲食スペースへと向かう。


「俺たちも行くか」

「はい、そうですね」


 男の言葉に頷きながら答える笑顔の女性だが、その表情とは裏腹に周囲を強く警戒しているようだ。


「周囲を警戒するなら視線を変えず、気配だけで探るといい。

 並の使い手程度なら、それで事足りるはずだぞ」

「そうですね、気をつけます」


 静かに話をしながら、ふたりは受付へと歩く。


 ここ冒険者ギルドには、多くの一般人も足を運ぶ。

 安くて早くて美味い食事が取れることが日夜幅広い層の人を惹きつける要因となっているが、だからこそ隠れ蓑になると男は考える。


 もし仮にその道の専門家(・・・)がいれば、どれだけ危険なことになるのかは未知数だ。

 "自分以上の強者は存在しない"と考えることの意味を理解する男からすれば、ただただ不気味に思えてならない。


 この場で気配を絶つようなやつなら、その程度だと割り切れる。

 瞬時に消えたものを感知すれば、その時点で敵だと判断できるからだ。


 逆に危険なのは気配を初めから偽り、それを維持できる相手がいた場合だ。

 それは相当の使い手の上、限りなく危険な人物であることは間違いない。

 こちらに感ずかれずに食事や酒を楽しむような相手ともなれば、このフロアに残してきた家族にも危害が及ぶことになると男は考える。


「……大丈夫ですか?」

「あぁ、済まない、考え事をしすぎていたな」

「無理もありませんが、彼女たちもいますから」

「そうだな」


 心配をする女性に短く答え、男は続けて話した。


「俺たちは、俺たちのするべきことをしよう」

「はい」


 美しい笑顔で言葉にする女性を連れた男は、受付にいる女性職員に短く答えた。


「"ヴァイス・ローエンシュタイン"だ」

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