未来を手にするための
冒険者を目指す子供を相手にしているような気持ちになるゴブリンどもを蹴散らしながら、俺たちは進み続ける。
ロングソードの衝撃からブランシェが立ち直ってしばらく経った頃、光となって消えていくゴブリンを見つめながら、彼女はひとつの提案をした。
「ねぇ、ごしゅじん。
次に出てくるゴブリンなんだけどさ、アタシひとりで戦ってもいい?」
「それは構わないが」
続く言葉を発しようと開いた口を噤んだ。
あの目は何かを求めているものに似ている。
何かの切欠を掴んだのか、それとも掴もうと手を伸ばしているのか。
こういったことを冗談で言葉にしたりはしない子だ。
ならば、口に出さずに見守ることが最善か。
前方に見えてくる3匹のゴブリン。
これまでと何ら変化は感じない。
真剣な表情で見据えていたブランシェは一気に加速し、中央のファイターと左のアーチャーを瞬く間に切り伏せた。
同時にバックステップで後ろに飛び退き、ゴブリンメイジとの距離を空けた。
「……まさか……」
「ふむ、そのまさかのようだな」
こぶし大の氷塊がゴブリンメイジから放たれる。
しかし、その速度はお世辞にも速いとは言えないものだった。
迫る氷塊をダガーで、ある一点を打ち抜くブランシェ。
甲高い音を周囲に響かせながら、魔法を霧散させた。
思わず歓喜の声を上げるフラヴィとエルル。
「わぁ! すごい!」
「いつの間にできるようになったのブランシェ!?」
「んー、なんとなく今ならできるかなって思ったんだー。
"魔力の流れ"も見えてたし、これまで結構考えてたんだけど使う機会がなかったんだよね」
集中力を切らさず、相手から視線も逸らすことのないブランシェは、エルルの問いに答えながら放たれる魔法を消し続けた。
それはまるで、技術を完璧に体得しようと修練している姿に見えた。
実際にあの子は学んでいるんだな。
その感覚を忘れないように何度も繰り返して。
いずれこの子も、あらゆる状況下で使いこなせるだろう。
エルルも魔力を込め、魔法の質を高めていた過程で体得している。
本人からすれば"逆なだけ"だと言葉にしたが、そう単純なものでもないんだが、元々エルルは魔法に関しては俺よりも遥かに造詣が深い。
まぁ、理由として確たるものは答えられなくとも、体得したならそれでいい。
この力はこの子たちを護るための"盾"になるはずだからな。
だがこれで子供たち全員が手にすることができた。
大人たちはどうなんだろうか。
ふと気になった俺は視線を向けた。
目が合ったレヴィアは、問いに答えるように話した。
「ふむ。
我は水操作ができるからな。
それを魔力に置き換えて相手のマナを操ればいいだけだ。
マナが纏われたものであれば無効化することも可能だろう」
「いや、それはそれですごいことをしてると、俺は思うんだが……」
「私もこれまでじっくりとマナを練り込んでいましたので、できると思いますよ」
練り込んだだけで魔法を無効化できるのは、リージェだけなんじゃないか……。
なんて言葉にても、彼女には伝わりそうもないな。
話したところで笑顔のまま首を傾げる姿が目に浮かぶ。
タイプは違うが、天才肌のふたりが手にした感覚を狂わせてもいいことはない。
これに関しては個々のやり方に任せたほうが最高の結果を出してもらえるか。
最後はリーゼルなんだが、彼女は違った意味で問題なさそうだ。
いや、ある観点から考えると、そう単純な話では済まないかもしれないが。
「私は強化魔法の修練過程でマナを維持し続けていましたし、エルルちゃんの魔法を後方からずっと見続けていましたから、トーヤさんほどではありませんが魔力の流れも見えるようになっていますよ」
そうだろうなと思う一方で、彼女の言葉は修練を積めば誰でも魔法を無効化できると言っているようなものだとも思えた。
もしリーゼル並かそれ以上の使い手なら体得できる技術だとするなら、魔法を無力化してくる相手と遭遇する可能性があることを意味している。
盗賊や野盗などの無法者が使ってくるとは思えない。
だが、敵対する相手には注意を払うべきだろうな。
「魔法を無効化してきた相手にも対応策がある、という表情に見えるな」
「……何でも見透かされている気がするが、その通りだよ。
魔法が効かない敵と遭遇してもいいように策を講じるだけだ」
「でも、みんながいないとあたしは何もできなくなっちゃうね……。
何かあたしでもできる対応策を考えないと……」
「エルル自身が単独で敵を倒す必要が出た場合は極端に限定された状況だが、それもいずれは学ぶべきこととして考えおくといいだろうな。
とはいえ、単純に強化魔法と"避"を体得すればある程度は形になるから、それを下地に"放"の体得を目指すか、それとも"廻"を目指すのかで道が大きく変わる。
オリジナルの魔法を編み出す道もエルルにはあるから、自分がなりたいと思える未来に進んで歩いていけばいいと俺は思うよ。
でも今はまず、"なりたい自分"を見つけることから始めるのが最初の一歩だな」
この点は心配していない。
子供たちはみんな、未来の自分像を見つけつつある。
戦いながらもそれをしっかりと感じさせる動きをしていたからな。
それなら、俺にできることも決まった。
その未来を手にするための支えになるだけだ。




