愉快な者たち
微笑ましく子供たちへ視線を向けていたラッヘルはこちらに視線を戻し、顎に指を当てながら訊ねた。
恐らくはその疑問も間違いではない。
どこか確証があるような気持ちで俺は答えた。
「でもさ、ここまでの報酬箱にはそういった魔導具は手に入らなかったし、結局もっと潜らないとダメなんじゃないかな?」
「そうだろうな。
これまで特殊な魔物は出ても、倒せないような敵はいなかった。
装備を揃えるなら40階層辺りがいいと聞いてるし、これからだろ」
30階層の報酬箱から未鑑定の片手剣は出たし、28階層でブランシェが見つけた隠し部屋から凄まじい効果を持つダガーが手に入っているが、彼らに迷惑がかかるかもしれないから話さないほうがいいだろうな。
「へぇ~そうなんだ?
それじゃあ、ここを越えた先が本番ってことだね」
「いい情報を聞いた。
感謝する、トーヤ」
「構わないよ。
それにそう簡単に装備が揃うようなものでもないと俺は思ってる」
「……そうか、確かにそうだな」
少し残念そうなエヴァルドには悪いが、俺が装備しているユニーク防具も恐らくは隠し部屋で手に入ったものだろう。
厚手の服なのに安めの金属鎧並みの防御力を持つって聞くし、行動に制限がつかない重さは非常に助かってる。
"廻"を使えばフルプレートアーマーでも同じパフォーマンスは可能だが、重鎧を装備した重々しいやつが消える速度で動けば悪目立ちしすぎるからな。
それこそ"魔王"だなんて不名誉な称号を手に入れてしまうかもしれないから、自重するべきだ。
「……お?
扉が戻ってるぞ」
「これで進めるな」
「あぁ、そうだな。
トーヤたちはどうする?
冗談じゃなく共同戦線ってのは助かるんだが」
「いや、俺たちは俺たちのペースで進むよ。
これも修練になるから、なるべくなら力を借りずに先を目指したい」
ボスの予想される攻撃力を考えれば、今の子供たちだと危うさはある。
だが、それも踏まえた上で戦えなければ先には進めない。
いい経験になると言えばそうなんだが、何よりも可能性を見せてくれる子供たちの行動が日に日に楽しく思えてきたからな。
いずれは自然と"静"系統を使いこなせるようになるかもしれない。
「……力を借りずに、か。
それは俺たちが言うべき言葉だったな」
「みんなは十分強いよ。
あとは実戦経験を積むだけで、もっと高みを目指せる。
いい師匠と出逢えたのが、俺にもしっかりと伝わったよ」
「嬉しいことを言ってくれるんだな、トーヤは」
初めて頬を緩ませるパウルは小さく笑った。
「おし!
それじゃあ行こうぜ!」
「……それは俺のセリフなんだが、まぁいい。
じゃあ、俺たちは先に進ませてもらうよ」
「あぁ、気をつけてな」
「おうよ!
こんなところで俺たちは終わらねぇ!」
「そうだよ。
レーネにウェディングドレス、着せてあげるんでしょ?」
「……ぁ、うん、そうだな……その資金も貯めないとな……」
「安いので十分ですからね?」
「そんなのダメだ!
いっちばん高ぇのでいっちばん似合うやつ着せてやる!!」
くすくすと笑うレーネとにまにまとするラッヘルを連れて、エヴァルドたちは扉の奥へと向かった。
静けさの戻った赤い扉の前に立ちながら、彼らの無事を祈る。
「なんとも愉快な者たちだったな」
「そうだな。
随分と賑やかだったけど、俺がこの世界に降り立って初めて出逢った友人たちにどこか似ていたよ」
「トーヤのお友達とも逢えるといいね。
迷宮内でも可能性はゼロじゃないんでしょ?」
「いや、今は逢えないほうがいい。
問題がすべて片付いてから逢いに行こうと思うよ」
「そっか」
嬉しそうに微笑むエルルの頭をなでながら、俺たちは扉が開くのを待つ。
彼らの実力なら、そう時間はかからないはずだ。
それを子供たちも察していたのだろう。
真剣な表情に変えながら作戦会議を始めた。




