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空人は気ままに世界を歩む  作者: しんた
第十三章 大切な家族のために
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立派な魔物

 戻ってきたフラヴィの頭を優しくなで、誇らしげに話した。


「言うことなしの完璧な突きだった。

 俺の教えをしっかりと反映させたことも分かったよ」

「えへへ、ありがと、パパ」


 目を細めるフラヴィに、将来的には長剣を持たせたいと思えた。

 可能なら打ち刀もお勧めしたいところだが、この世界じゃ相当目立ちそうだ。

 これについても落ち着いたら調べないといけないな。



「次はエルルか」

「任せて!」


 魔法が得意なエルルにとって、耐性が普通のスライムは問題なく倒せるだろう。

 この子の場合は倒せるかではなく、倒した過程のほうが重要だな。


 とはいえ、油断するような子でもない。

 フラヴィと同じく安心して見守れる。


 敵を目視で確認できる位置まで歩くと、エルルは振り返りながら答えた。


「それじゃあ、行ってくるね!」

「あぁ」


 敵を見据えると同時に集中力が極端に増した。

 こうしてスイッチを入れるのは結構難しいはずなんだが、実戦経験を積み続けているから体得も早いんだろうな。


 俺との模擬戦とは違い、魔物との闘いは命のやり取りになる。

 これができるとできないとでは強さに大きな差が開くが、子供たちに当てはまることじゃない。


 早い時期からそれを学んだエルルに、俺は頼もしさを感じた。


 集中する子に迫るスライム。

 ぽよんぽよんと弾みながら距離を詰める姿に可愛らしさすら感じるが、あれでも立派な魔物だ。


 特にエルルは身体能力としては子供同然だから、スライムの一撃でも直撃すれば大ダメージになるし、当たりどころが悪いと大怪我に繋がる危険性もある。


 だからこそ、エルルは集中する。

 これは遊びじゃないことを、幼い年齢でも理解しているんだ。

 その点を考慮すれば、これまで出遭ってきた馬鹿冒険者とはまるで違う。


 この子もまた、強くなりたいと心から願っている。

 そしてそうなろうと努力を続け、未来の自分を目指して研鑽するだろう。

 そう遠くないうちに身体能力強化魔法を使いこなし、いずれは"静"系統の"避"も体得してくれるはずだ。


 ある意味ではフラヴィよりも教え甲斐のある子だ。

 ブランシェは一度か二度説明するとすぐに体得されるから、この子がいちばん教えてるって気持ちになるんだよな。


 弾みながら体当たりをするスライム。

 敵に目を逸らさず、エルルは気合の込められた魔法を放った。


「"火の壁(ファイア・ウォール)"!!」


 火柱のような魔法が地面から噴き出し、触れたスライムを消失させた。

 どうやら防御としてではなく、攻撃用の魔法だったみたいだ。


 倒す瞬間に対象の下部から燃えていたようだし、魔力の流れは下から上へ噴き出しているのも確認できた。

 面白い魔法ではあるが、威力が強すぎて人に使うと大変なことになりそうだ。


 まぁ、優しいエルルが人に向けて撃つことはない。

 魔物相手だからこそ使える魔法のひとつってことだろうな。


 倒したのを喜びながら、こちらに振り返るエルルへ言葉にした。


「すごい魔法だな。

 威力、範囲、魔法が発動するまでの時間と速度、すべて問題なさそうだ。

 特に真下からの攻撃は中々特殊で、使いこなせば強力な武器になる。

 避けられにくく、非常に効果的な場合も多いだろうな。

 エルルのことだから、ここから威力を下げて人相手にも使えるようにしようとしてるんじゃないか?」

「さすがトーヤ!

 この威力じゃ使えないし、魔法壁みたいな状態で下から突き上げる魔法が出せないか考えてるんだ。

 今回は初めての魔法だから力を込めて発動したけど、もう少し改善してみるね」


 ……その言葉の意味を、この子は本当に理解しているんだろうか。

 世界でただひとつの魔法を編み出し続けているんじゃないかとも思えるエルル。

 その特異な技術力に、世界の名だたる魔術師や魔法研究家に目をつけられたりしないといいが……。


 もしも威力が抑えられた魔法が体現できれば、人相手にも通用する技になる。

 あとは無詠唱で発動すれば、魔力を感知できない敵には必中する凄まじい魔法になるんじゃないだろうか。


 まぁ、可能性の話はしなくても、今はいいだろう。


 問題は最後の一人だ。

 唯一の不安材料を抱えたブランシェだが、その意欲は十分で、今にもスライムに向けて突っ込みそうな気配を感じた。

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