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空人は気ままに世界を歩む  作者: しんた
第三章 掛け替えのないもの
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肝が据わってきたわね

 今後必要となる物を考えていると、視線をこちらに向けた彼女は俺に訊ねた。

 心なしか瞳が金貨の形をしているように見えたのは、きっと気のせいだな。


「トーヤ君はどーう?

 何かお探しのものはあるかしら?」

「お、おい、やめとけトーヤ。

 ものすごい高いアイテムをぼったくられる気がしてきた……」

「あらあらぁ……お姉さんの目の前で堂々と営業妨害かしら?

 中々肝が据わってきたわねぇ、ふーちゃんは。うふふっ」


 普段の表情に戻るラーラは威圧を込めてフランツに話す。

 ぶるりと体を震わせながら、彼は視線を逸らした。


 精神的に負けた男を横目に、俺は彼女に尋ねた。


「野営に役立つ魔導具はあるか?」

「あるある! いっぱいあるよー!

 もしかして、"冒険者始めました"さんかな?」

「ああ、間違っていないと思う。

 ゼロから野営をするために必要な物を買い揃えようと思ってたんだ」

「なるほどねー。じゃあまずはあれかしら」


 カウンター越しに店内の一角を指差す店主。

 そこにはひとつの箱の中に小道具が綺麗に並んでいた。

 目の前まできた俺は手に取り、ラーラに質問した。


「これは?」

「おっと、トーヤ君はお貴族サマかな?

 それとも大商人の息子さんかな?」


 どうやら失言したらしい。

 この世界では常識的なアイテムだったようだ。


 周りを見ると苦笑いをこちらに向けていた。

 あれは『先に言っておくべきだった』って顔か。

 申し訳なさすら感じる気配を俺に向けている4人へ、気にしなくていいと手で伝えた。

 だが、色々と学ぶことが増えた気がするな。


「これはね、火を(おこ)すための道具なのよ。

 使い方はここを押すと火が出るの。面白いでしょ」

「なるほど」

「一応魔力は消費するけれど、MPが0じゃなければ使えるわ。

 火熾しは野営に必須。木の枝で熾す原始的な方法は大変だからお薦めしないわ。

 ちなみにお値段は3800ベルツよ。今ならレンガだって切れちゃう包丁と焦げつきにくいフライパンをつけて、1万ベルツぴったりでいいわ!」

「焦げにくいって、それも魔導具なのか?」

「もちろんそうよ! 包丁も切れ味が落ちにくくて錆びにくいものになってるわ。

 あとは、そうね。食べ物を長期保存できる石なんかもあるわよ」


 詳細を聞いてみると、溶けない氷のようなものらしい。

 それほどの冷却効果はないが、ある程度長く食材を保存できるようになる。

 こういったものを持っていれば便利なのは分かるが、俺には必要ない。


 インベントリの効果は、温かい食品をそのままキープできるものだった。

 逆に冷たいものでも問題ないだろうと思えるチートスキルだ。

 これは必要ないなと思っていると、ラーラから不意を突かれる言葉を出された。


「……そっか。

 トーヤ君は空人なんだね。

 じゃあインベントリも持ってるのかな?」

「どうしてそう思う?」


 冷静に言葉を返すが、内心では心が揺らいでいた。

 彼女は静かに答えるも、それはどこか寂しげな声色に聞こえた。


「私も空人と逢ったことがあるからだよ。

 もうずっとずっと昔のことだけどね」

「俺以外にも空人はいるのか」

「そうだね。いると思うよ。

 公言しないだけで、もしかしたらすれ違ってるのかもしれないね」

「そんなに多いのか?」


 俺の問いに悩むようにしながらラーラは答える。


「んー、どうなんだろうねぇ。

 空人は"迷い人"とも呼ばれてるし、実際には相当少ないかもね。

 私もトーヤ君が二人目だから、そこまで詳しくは知らないの」

「そうか。

 ……参考までに、どうして分かったのか訊ねてもいいだろうか?」


 彼女はしばらく目を丸くするも、あははと楽しそうに笑った。


「色々だよー。

 最初はお貴族サマかとも思ったけど、靴がこの世界のものとは違うからね。

 空人って言葉を出した時、横にいる4人の反応を見ていれば納得できたと思うし、冷蔵できるアイテムは不必要だなって目をあなたはしてた。

 様々な情報を考慮して導き出した答えだけど、一番はトーヤ君の純粋で綺麗な瞳が彼女に似ていたからそう思えたのよ」

「もうひとりの空人のことか?」

「ええ。あの子もあなたと同じ、とても美しい瞳の輝きをしていたわ」


 俺と同じ空人か。

 なら境遇は俺と似ているはず。

 その女性を探して話を聞くのもいいかもしれない。


 それに、他にも空人がいるなら探してみるのもいいな。

 もしかしたら同郷の人とも出逢えるかもしれない。

 俺がいた世界ではない、別の場所から来た者の可能性も捨てきれないが。


 そんな考えも伝わったのだろうか。

 ラーラは寂しそうに言葉にした。


「もう、ずっとずっと昔にお別れして、それっきりよ」

「……そうか」


 それ以上、俺は何も聞かなかった。

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