何かできたはずだと
これまで随分と旅をしてきたが、一度だって後悔をすることはなかった。
そうしないような行動を心がけていたし、選択してきたと思う。
それが最善ではなかったとしても、より良い道を選んでいた、と。
だから、これまで一度たりとも後悔をしたことはないはずだ。
これからだってそうだ。
俺にはもう大切な家族がこの世界にもできた。
みんなが笑顔で過ごしてもらえるなら、どんな敵だろうと倒してみせる。
まるで心に言い聞かせるように、言葉を繰り返す。
……けど。
本当に、この道は正しかったんだろうか。
もしかしたら、どこかで間違えているんじゃないだろうか。
何か重大な過ちを犯しているような気がしてならない。
それにすら俺は、気がついていないんじゃないか?
これまでは気のせいだと思っていた。
いま感じているものも、考え過ぎているだけなのかもしれない、と。
だが、ここ2日は、特にひどい。
戸惑いや迷い、焦りや不安を強く感じている。
それすらも、気のせいなんだろうか。
……いや、きっとこれは、何かを見落としている。
ここまでの旅で、取り返しのつかないことをしている。
そんな気がする。
……そうだ。
ひとつだけ。
ひとつだけ、引っ掛かりを覚えていることがある。
でも、きっと何とかなる。
大丈夫だ、きっと。
みんなが笑顔でいられるはずだ。
* *
この時の俺は、何の確証もなく、ただ漠然と感じる曖昧で不確かなものを信じていた。
でもそれは、事の本質から目を逸らしていただけなんだ。
そうなってしまう可能性も確かにあった。
それにすら気づかない振りをし続けていたんだろうか。
もしもあの時、俺が……別の行動を取っていれば……。
あんなことには、ならなかったかもしれない。
そう思えば思うほど、何かできたはずだと考えずにはいられない。
呆れるくらい今更な話に、苛立ちを通り越して自分が情けなく思えた。
でも、この頃の俺には余裕がなくて。
暗殺者だ大貴族だのと、くだらない厄介事ばかりに気を取られすぎて。
子供たちの修練をしながら、ただただ見ないようにしていた。
だからこれは、俺の責任だ。
俺がそうしてしまった。
俺がそうさせたんだ。
すべては俺が不用意に力を使って卵を孵したことが原因なのか……。
自衛目的とはいえ、戦わせようとしたことが問題だったのか……。
あんなにも優しい心を持つ子を、危険な世界に引きづり込んだのが……。
それとも、どんな道を進んでいたとしても、変わらなかったんだろうか……。
まるで必然のように。
そうなることが運命付けられていたように。
……親失格だな、俺は。
それをのちに、身をもって思い知ることになる。
そして俺はその時、重大な決断を迫られることになる。
他の誰でもない、父親である俺自身が。
どうすればいいのかなんて分からない。
何が正しくて、何が間違っているのかも。
本当のところ、正解なんてどこにもなかったのかもしれない。
「それでも……俺は――」




