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空人は気ままに世界を歩む  作者: しんた
第十二章 静と動
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静と動

 随分と驚きに満ち溢れた気配を感じさせるみんなの精神状態が落ち着くのを見極めて、俺は話を続けた。


 これに関しては以前少しだけ話をしてきたが、すべて口頭で済ませていた。

 実際に見てみると分かることや、そうしなければ分からないこともある。


「まずは"動"系統の下位技だな。

 見た目での判断はつかないが、気配を探ると何か感じるだろう?」

「……何かが、体の中心に……集まってる?」

「そうだ。

 エルルの言葉通り、体内に力を集めた状態となっている。

 この力に関しては後で説明するが、今はマナとは別の力と思ってくれていい。

 MPを使った魔法力ではなく、いわゆるひとつの生命力に分類されるだろうか。

 正確には違うんだが、これは誰もが持っている力だし訓練次第で誰でも使える」


 体内に力を集め、体を満たす手前の状態。

 それ以外に特別な効果を持たないが、次に繋げるための大切な技となっている。


「これが"動"系統下位技の"(しゅう)"。

 そして集めた力を体内に行き渡らせる"(じゅう)"。

 こうすることで集めた力を凝縮させて巡らせることができる。

 "動"の中位技"充"で力を満たすことは、これだけでも身体的な強化はされているが、残念ながらこの状態では完成形には程遠い。

 より身体に好影響を与える力とするのが、先ほど俺が使った力になる」


 ここまでくれば十分すぎるほどの強さを得ることができるが、さすがにこの技術を体得するにはエルルでも苦労するはずだ。


 "覇"ほどではないにしても、暴れ馬のような力の奔流をなだめる(・・・・)必要がある。

 力で押さえつけようとすればするほど反発するから、巧く循環させて扱えるようになるにはそれなりの時間をかけなければならない。

 急ごしらえで手に入れようとすれば、いざ必要なときに暴発しかねないからな。


 だが、まずは名称だけでも伝えておこうと思う。

 将来的には手にして欲しいと思っているが、完全に過ぎた力になるからな。

 あとはみんなの意思を尊重して選んでもらうのがいちばんだ。


「"動"の上位技、"(かい)"。

 "集"を学び、"充"を経て、"廻"に至る。

 "充"で満たした力を体内に廻らせ、肉体的な強化として発揮するための技だ。

 俺の見立てでは、魔力による身体能力強化の上限は"廻"に遠く及ばない。

 絶対的な魔力量を持つレヴィアだろうと、それは変わらないだろう。

 しかしこの技は、それを遥かに凌駕する強化を誇る規格外の技だ。

 それは"静"の最上位技にも言えることではあるが、中でもこの"廻"は上位技でありながらひとたび発動すれば圧倒的な武力で敵を制し、数十どころか数百の鍛え抜かれた冒険者を倒すことも可能としてしまう。

 俺がまったく動いてすらいないようにしか見えなかったことが証明している。

 そして同時にこの技は、どんな状況からでも"放"に繋ぐことができるんだ。

 地面を抉り、衝撃を放つような力をまともに受ければ立っていられないだろう」


 これが"動"系統。

 自己強化を主軸に、その力を攻撃的なものとして相手へ向けることができる。

 相手の攻撃を制し無力化する"静"とは真逆とも言える、攻撃に特化した力。


「"静"系統についても、おさらいしておこうか。

 "(いつ)"、相手の攻撃を逸らすことを目的とした下位技だ。

 "()"、相手の攻撃を回避することに特化している中位技。

 "(えん)"、力の流れをコントロールし、相手の攻撃を無力化する上位技になる。

 逆にそれをしてきた者への対処法として編み出された"(てん)"を加えた"静"系統は、そのほぼすべてが相手の攻撃を防ぐ技が主軸となっている」


 最上位技に関しては"動"系統の"覇"を含め、ありえないほど強力な技術だ。

 それは上位に該当する"円"や"廻"、"放"を遥かに凌ぐほどの効果を持つ。

 "静"の頂点に位置する技術は、言葉通りの"完全回避"を相手に見せる。


 隔絶された別次元の凄まじさを誇る奥義以外では、最上位どころか上位技でも十分すぎるほどの強さだし、それ以上を求められる状況はないと思いたい。


 しかし、それもすべては俺の希望的観測にすぎないことも事実だ。

 そうはならない、そうさせない連中がいると仮定して行動するべきだろう。

 何よりも俺の予想では、確実に奥義を"無明長夜"で放てるようにしておく必要があると俺は考えている。


 そう思わせる、いや、そう確信させる存在が、確かにこの世界にはいるんだ。

 "テネブル"と呼ばれた、ブランシェの母ブランディーヌを倒した危険なやつが。


 これまでそれを連想させる気配を感じ取ったことはない。

 だが、あれほどの強者を倒す存在が、この世界で異質なわけがない。

 そんな危ないものがごろごろと歩いている世界なら、冒険者の強さも相応のものを持っているはずだし、これまで出逢ってきた馬鹿どものような考え足らずは限りなく少なくなっていなければおかしい。


 この世界で危険視されているものは、龍やフェンリルといった伝説上の魔物とまで呼ばれている存在以外では盗賊や野盗、冒険者崩れなどを含めた無法者たち、つまりは"人間"だ。

 にもかかわらず、あの程度の実力しかない連中しかこれまで遭遇しなかった。


 当然、相応の強さを持ち、さらに危険な思想を持って行動をする暗殺者が弱いとはとても思えない。

 人を殺して生計を、時には愉快犯のような考えで人を殺めるような連中だ。

 まず間違いなくランクS冒険者を超える実力があると想定するべきだ。


 だからこそ、たとえいらないかもしれないものでも"強さ"を求める必要がある。

 その時に後悔するよりも、必要なかったと後で笑ったほうがずっといいからな。

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