表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
空人は気ままに世界を歩む  作者: しんた
第十二章 静と動
473/700

びっくりしたよな

 食後のデザートを食べてまったりしたみんなを確認し、俺は自己鍛錬を始めた。


 可能な限り早く"無明長夜"を十全に扱えるようにならなければならないが、木刀との違いは随分とあるから、それなりに時間をかけて慣らしていきたいところだ。

 まずは違和感なく剣術の型を振れるようになる必要がある。


 抜刀、納刀を繰り返していた俺に、首を傾げながらエルルは訊ねた。


「それって、どんな練習なの?」

「"無明長夜"を扱うために必要なことのひとつだよ。

 重苦しい気配を放ってるから申し訳なく思うけど、少し我慢して欲しい」

「それは大丈夫だけど、もっとこうごしゅじんは、剣を振ったり技を使ったりって修練をするんだと思ってた」

「新しい武器を持っていきなり技をぶっ放すのは、かなり危ないぞ」


 特にこの刀は切れ味が想像もつかないほどに鋭い。

 気配だけで察するところ、岩どころか鉄も技術があれば問題なく斬れるだろう。

 となると、あとは奥義に耐えうる武器か、早いうちに調べておく必要がある。

 今後は俺も魔物と戦ったほうがいいかもしれないな。


 ……余計なことを考えすぎてるな。

 無心とはいかなくとも、心を落ち着けて集中するべきだ。


 抜刀と納刀を静かに繰り返す。

 とはいっても、この所作自体にそれほど深い意味はない。

 むしろ覚悟を決めるためや精神統一の一環としては効果があるが、それ以上のものは得られないだろうな。


 だがこの動作は、奥義にも必要になってくる。

 素早く刀を抜き放つことには関係ないが、ある程度は扱えたほうがいいからな。


 しばらく同じ動きを繰り返し、今度は上段の構えから正面に振り下ろす。


 ……本当にすごい刀だ。

 まるで空間そのものを斬りつけているような鋭さを肌で感じる。


「絶対に、近づいちゃダメだぞ」


 子供たちに注意を促し、かなり強めに打ち込む。

 唐竹から刃の角度を変えて左薙ぎ、右薙ぎ、刺突、逆風、もう一度唐竹を放つ。


 しかし、最後の一撃に気合を入れすぎてしまった。

 遅れて暴風のような圧が周囲へ吹き荒れた。


「……あー、悪い。

 びっくりしたよな」


 まともな剣術をするのは久しぶりだからな。

 自分を抑えきれずに修練を優先しすぎてしまった。


「……な、なんだ、今の一撃は……」


 子供たちだけじゃなく、珍しくレヴィアも目を丸くしていた。

 まぁ、最後のは本気で打ち込んだ俺が悪いんだが。


「ちょっと集中しすぎたみたいで、風圧を抑えきれなかった」

「……ふ、風圧って、あんなすごいのを人が出せるの?」

「相当修練を積めば、いけるんじゃないか?」


 エルルの問いに疑問形で返してしまったが、実際にこれを体得するのは難しい。


 今のは"動"の上位技が自然と出ていた。

 俺の腕力だけで出したわけじゃない。

 だから体得すれば、みんなでも同質の力を放てるだろうな。


 ちょうどいい機会だし、もうひとつの上位技を見せておくか。

 ……いや、肉眼で見えるとも思えないんだが……。


 インベントリからダガーを取り出し、離れた壁に投げて突き刺した。


「ここから反対側の壁まで、ちょうど20メートルくらいだろうか。

 今からあのダガーを取ってくるから、俺のことをよく見ておいて欲しい」

「ふむ?

 よくわからないが、わかった」


 きょとんとするレヴィアの表情に思わず興味深いと思ってしまったが、短剣に視線を向けて気合を入れ直す。


 技を使い、俺は確認するように話した。


「いくぞ?

 よく見ておくんだ」

「トーヤを見ていればいい「取ってきたぞ」……の?」


 きょとんとするエルル。

 一瞬、何を言ったのか理解できなかったんだろう。


 それは、どうやらエルルだけじゃなかったみたいだ。

 レヴィアなら見えるかと期待したんだが、まだ難しいか……。


 完全に時間が止まっているみんなを見るのは初めてだな。

 中々面白い光景だから、目に焼き付けておこう。


「……ぇ、何を……取って……きた、の?」

「壁に刺したダガーを、だ」


 目を白黒とさせながら、壁と俺の手に持っているダガーとを行ったり来たり確認する一同に、自然と口角が上がった。


「まぁ、見えないだろうなと思っていたし、気にしなくていい。

 これはひとつの座興だとでも思ってもらってもいいよ」

「……な……それは……壁に刺したダガー……なのか?」

「あぁ、そうだよ」

「その場を動いていなかったのに、どうしてトーヤさんの手に……。

 もしかして、インベントリに入れて取り出したのですか?」

「インベントリスキルの効果範囲は3メートル程度しかないから、壁に刺さった短剣はしまえないよ」

「……で、では、同じ短剣を取り出したのでは?」

「なら、壁にダガーが刺さってるはずだろ?

 俺がそれを持ってきたから無くなってるんだよ」


 ぽかんと呆けるこの場にいる家族たちに、思わず笑みがこぼれた。

 父さんに初めて見せてもらった時、俺が見せた反応そのものだ。


「俺もそうだったよ。

 今なにが起きたのかも分からなくて、話を聞いても信じられなくて。

 戸惑いながら必死に考えて、それでも結局答えは出なかったのを思い出したよ」


 懐かしい日を思い出せた。

 あれから随分と修練をしてきたが、あの速度が見えるようになったのはいつくらいからだったんだろうな。


 なおも言葉が出ないみんなへ、俺は言葉を続けた。


「折角だ。

 いま使った技の説明をする前に、"動"系統の技を先に見せておこうか。

 将来的に手にして欲しい技術ではあるけど、これは本当に難しい技術だから無理して覚えることもない。

 こんな技術も世の中にはあるんだなって思う程度で十分だよ」


 あくまでも自分の将来像は、みんなが自由に選べばいい。

 俺がこれを見せるのは、その可能性と選択肢を広げるためだ。


 なりたい自分が見えてくれるなら、それで十分だからな。

唐竹(からたけ):真っ直ぐ振り下ろす斬撃。

逆風(さかかぜ):下から上に斬り上げる斬撃。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ