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空人は気ままに世界を歩む  作者: しんた
第十二章 静と動
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考えもしないでしょうね

 大人たちはいつものように後方待機だが、今回は俺の動きに集中してるようだ。


 当然、目視だけで体得できるほど簡単ではない。

 しかし見取り稽古となればみんなのためにもなる。

 ほんの少しでも何かを得てくれたら、それで十分だ。


 先行するブランシェがダガーで突きを繰り出す。


 相変わらず凄まじい速度だ。

 そろそろ俺も技を使わなければ回避できなくなってくるな。

 それに、覚えたてで使ってみたいからってわけでもなさそうだ。

 目標への最短距離を最速で繰り出せる攻撃だと知った上で放っている。


 ……だが。

 そう簡単に当たってやれないな。

 交わしながら力の流れを誘導し、体を縦回転させた。

 瞬時にダガーを地面につき立てたブランシェは、俺の足首を掴んで"転"を放つ。


 まだまだ荒さは目立つが、たった一度の攻撃を受けただけで体得されるほど単純な技術じゃないんだがな。


「どうだ!」


 地面に手を付き、衝撃を吸収。

 一歩分を素早く後転し終えた瞬間、足払いを当てブランシェを宙に浮かせる。


 両足が離れた子は一瞬の隙に地面を蹴り上げ、空中で小さく体を一回転させて体勢を立て直すが、それだけの時間があれば至近距離にまで詰められる。

 直前にいる俺を視界に捉え焦ったのか、突き方が弱い攻撃を放った。


 突きをダガーで軽くいなす。

 さすがに体勢を崩された状態で放った一撃をくらってやることはできない。


 今のは随分と精神的な衝撃を受けたみたいだな。

 目を丸くしたブランシェはわずかに動きが硬直した。


 分かりやすい表情をしながらも、数歩分の距離を取るブランシェ。

 間髪入れずに足へ力を込めてこちらに迫るが、同時にフラヴィが真後から狙っているのもずっと見えていた。

 直線状に並ぶと危ないんだが、これは教えてなかったな。


 後ろに右手を回し、確認せずにフラヴィのダガーを受け流しながら、入れ違うようにふたりを視界に捉えた。

 勢いを押さえきれないフラヴィは、ブランシェと交差するように避ける。


「はわっ」

「あう!?」


 ふたりから3メートルほど距離を取り、気を緩めずに話した。


「正面と真後ろからの同時攻撃は悪くないが、勢いが付きすぎると危ないんだ。

 背後の攻撃をメインに、正面のブランシェは陽動に徹するのがいいと思うよ」


 周囲の気配をはっきりと読める俺には背後からの攻撃も回避できるが、タイミングさえ完璧に合えばリーゼルですら避けられないだろうな。


「危なかった……。

 フラヴィとぶつかるとこだった」

「……うん」


 お互いを見ながら胸をなでおろすふたり。

 ついでにさっきの行動にも違和感があっただろうし、その説明もしておくか。


「ふたりのダガーをいなしたものが"静"の下位技、"(いつ)"。

 相手の攻撃を逸らして威力を無効化した上に、返し技にすら派生させる。

 体得すれば、この技だけでも相手を翻弄することが可能だろうな」

「ふむ。

 単純だが、効果は絶大だな」

「はい。

 並の冒険者では攻撃を逸らされること自体、考えもしないでしょうね」

「だからこそ効果を発揮する技だ。

 "最大の隙は相手の攻撃にこそ存在する"

 そんな教えも俺の学んだ流派にはあるんだよ」


 リーゼルの言うように、この世界の住人には面食らう攻撃になるだろう。

 同時にこの技は、熟練した武芸者ですら完璧な対処をすることは難しい。

 相手の攻撃を逸らすことだけには留まらないこの技は、少し力を込めるだけで相手の隙をこちらが作り出してしまう。

 流派によってはこれだけでも奥義と言葉にするかもしれない高等技術になる。


 当然、体得するのも難しく、肉体的な強さと優れた感覚が必要不可欠だ。

 しかし鍛え上げた肉体など作らなくても、あるひとつの技術さえあればそれを現実的に可能とする。

 そしてそれは人が持つ肉体の限界を超えて、体得を極端に早くするだろう。


「ここでも気配察知が活きてくる。

 周囲の気配を探るのは初歩的な使い方で、本来は戦闘に応用させる技術だ」


 ディートリヒたちに教えたのも初歩。

 時間がなかったこともあったが、ある意味で我流に近い彼らの型を修正しなければならない上に"静"を学ばせるとなれば、早くても3ヶ月はかかるだろう。

 だが気配を察知できるだけでも凄まじい効果を持つし、この世界の住人がそれ以上の強さを必要とするとは考えにくい。


 過ぎた力は悪目立ちするだけじゃなく、己や周りも不幸にしかねない。

 あれだけでも十分彼らの力になっているし、それ以上は控えるべきだろうな。


 それに彼らは暗殺者から狙われることもない。

 問題は子供たちのほうが遥かに危険が迫る可能性は高いはずだ。

 だからこそ必要としないとは思っていても、高等技術を学ばせようとしている。


「さあ、模擬戦を続けよう」


 いま見せたのは、攻撃を逸らしただけ。

 返し技としても応用が利くとはいえ、所詮は下位に位置する技だ。

 下位技とは、文字通りの意味を持つ。


「これができなければ先に進めないわけではないが、今から見せるのは中位技。

 "動"系統の中位技とは違い、"静"の中位技はそれだけでも異質な力だ」


 そしてこの技術をエルルには覚えてもらいたいと思っている。

 体得すれば、まず間違いなく安全に敵の攻撃を避けることができるだろう。


「"静"の最上位技にも通ずる"回避の真髄"の片鱗を、しっかりと見て覚えてもらえると嬉しいよ」

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