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空人は気ままに世界を歩む  作者: しんた
第十二章 静と動
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したくないんだ

 がらんとしたボス部屋前。

 急に広くなったように思いながらも、空気の清々しさに心地良さを感じた。


「ふむ。

 ようやく静かになったな」

「えぇ、ああいった害虫は駆除するに限ります」


 怖いことを言ってるように思えるが、あの連中は冒険者だと認めたくない。

 特にリージェは本物の冒険者を知っているからな。

 同じ括りにしたくなかったんだろう。


「女性と見るや、あの態度。

 ……自由を何だと思っているんでしょうね」


 珍しく苛立ちを抑えきれないリーゼル。

 セクハラなんて言葉はこの時代にはないんだろうし、彼女もソロ活動をせざるをえないくらいに苦労していたってことか。


「……まぁ、暴力を振るわずに済んだことは重畳だな」

「あんなのぼっこぼこにしちゃえばよかったんだ!」

「なんであの手の連中はトーヤのこと悪く言うの!?

 ほんっと見た目だけで判断するとか、最低だよ!!」


 今にも追いかけて噛み付きそうなブランシェと、両足を地面にだむだむと踏みつけるエルルはどうにも怒りが抑えきれない様子だった。

 だが話すべきこともできたし、いい機会だから伝えておこうと思う。


「冒険者ってのは何をするのも自由だ。

 しかし、それを履き違えてはいけない。

 あの連中のように自分を中心に考えては良くないし、周りも見えなくなる。

 本来であれば先輩たちに敬意を込めて接するべきだが、あれらには必要ない。

 だとしても、なるべくなら暴力で解決はしないほうがいいし、したくないんだ。

 俺の国には"先に手を出したほうが負け"、なんて言葉もある。

 なるべくなら自衛目的以上の力を使わずに対処ができるようにしたほうがいいかもしれないと、俺は思ってるよ」


 ムカつくことを言われて殴れば、ギルドで揉めることになるだろう。

 それこそ多数同士で言った言わないの水掛け論になることは目に見えてる。


 その点、強めの威圧を放てると、色々と便利だ。

 手を下さずとも、相手の心が勝手に負けてくれるからな。


 ある意味では殴りつけるよりも効果的で有用な手段だ。

 物理的なダメージではなく、精神的に突き刺さるものは遥かに痛いからな。


 そしてそれは、そう簡単に治せないほどのトラウマになりかねない。

 だからこそ使い方に細心の注意を必要とするが、あんな連中の心が折れようと俺の知ったことではないし、実際に精神的な疾患に繋がっても自業自得だと本人を目の前にして言葉にするだろう。


 まぁ、あの程度の威圧に耐えられないんじゃ、仕返しなんて考えないだろ。

 来たら来たで潰せばいいだけだし、問題にすらならない。

 ただ少し、時間を使うだけだ。



「……扉の模様は赤、か。

 結構な時間が過ぎたが、未だ攻略中みたいだな」

「ふむ、確かこの先に待ち受けるのは、耐久力の高い魔物だったか」

「あぁ。

 "岩石の小手"や、"岩石の槍"がレアドロップ品らしい。

 前者は680万ベルツで、後者は550万ベルツで売れるそうだ」

「なるほど、それでここを周回していたのですね」

「小手だけならそれほど金策にも向いてないと思うが、土属性を持つ魔物に効果的な槍はリーチの長さもあって便利だからな」


 とはいっても、岩で作られたような魔物が多いとは思えない。

 最前線から少し離れていると言っても、槍を持ってゴーレムと戦うのは危険だと判断されても不思議なことではないからな。


「だからこそあの連中は槍を持っていなかった、ということか」

「だろうな。

 本音を言えば、後衛で魔法を撃てば倒せる敵ばかりを相手にするのは危険だ。

 それが日常になると、突発的なイレギュラーに対処できなくなる可能性が高い。

 将来的には近接、中、遠距離すべてに対応できるようになるのがいちばんだとは思うんだが、それにはやはり時間をかけての修練が必要になるからな。

 まずはそれぞれの立ち位置を確立させることを優先するといいよ」


 子供たちは連戦を重ね、かなりの安定感が出てきた。

 そこいらを歩く魔物では怪我をすることも極端に少ないはずだ。


 それは違った視点で考えるのなら、修練をする場所が見えないことにも繋がるが、いずれは見つかるだろうと信じたいところだな。

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