同じ男として
「おい見ろよ!
ヒョロい小僧が美人とガキ連れてんぞ!」
「あぁ?
ありゃ、逆だろ。
美人の雑用で連れ歩いてるんだろ」
「ぶふッ!
なんだよそれ!
カッコ良すぎるにもほどがあんだろ!」
品性を感じさせない表情と仕草に、同じ男として情けなく思う。
……本当にこんなやつらばかりが迷宮を探索してるんだろうか。
こちらを指刺し、罵倒し続ける知性の低い男たちに、白い目を向ける。
どうやらリージェもレヴィアも、リーゼルでさえも同じ気配をまとっていた。
これだけ連続して変なのと遭遇しているとさすがに思うところもあるが、恐らくはこの階層まででこういった馬鹿どもはいなくなるだろうな。
俺の予想では、30階層を越えれば落ち着きを見せると考えている。
簡単に倒せて金策もできるような魔物なんてのは、それほど多くはないはず。
ここのボスも遠距離特化攻撃を繰り返すだけで倒せることは、連中の格好を見れば一目瞭然だ。
それにしても、弓士と魔術師のみで構成されたパーティーしかいないとは。
中々面白いチーム構成だとは思う。
しかし立ち振る舞いと気配から、それほどの強さを感じない。
言動も相まって、こいつらは修練も大して積んできていないみたいだな。
本音を言えば性根を叩き直したくなるが、俺にはそんな義理もないからな。
どうせこのエリアを出ることはないんだろうし、勝手にすればいいと思う程度で俺は気持ちを落ち着ける。
問題は子供たちか。
特にエルルとブランシェが相当苛立ってるな。
自分は言われても仕方ないと納得できるが、どうにも家族が悪く言われることに腹が立つみたいだ。
家族のために憤れることは誇らしく思えるんだが、今にも噛み付き、魔法をぶっ放そうとする気配を強く感じた。
ふたりの頭に手を乗せ、優しくなでるも効果はあまりなさそうだ。
うなり声を抑えきれないブランシェと、両拳を強く握り込むエルル。
さてどうしたもんかと考えたところで、俺の取れる手段は非常に少ない。
ここは穏便に乗り切れるような対応を心がけるべきだろうな。
「順番待ちか?」
俺の言葉に男どもの会話は途切れる。
……思っていた以上に面倒そうな連中のようだ。
「おい、あのヒョロっちいのが何か言ったな?」
「"順番待ち"だ?
何の冗談言いやがったんだ、あのガキ。
まさかあいつらボス部屋に行くつもりかよ?
背伸びしてねぇでゴブリンと遊んでろ!」
一拍空けて高笑いが聞こえる姿に、妙な既視感がある。
……あぁ、そうか。
こいつらも15階層にいた連中と同じ人種か。
だとすると、会話すらロクにできないサルの可能性があるな。
見たところ、2つのグループだな。
チームは4つ、うち2パーティーを編成して攻略周回するレイドチームか。
遠距離特化型を12人で1チームとするなら、距離を取った4箇所から同時、場合によっては時間差で攻撃する陣形で戦ってるのか?
……随分と危なっかしい戦い方に思えてならないが、何度もクリアしているやつらが取る効率最優先のスタイルだからな。
一点突破されたら一気に陣形が瓦解するような戦いにはならないんだろう。
詰まるところ相手の動きが遅く、近づかなければ安全、という意味になる。
弓士が少ないことから物理攻撃は効き難いが、スキルで対応ができるほどの耐久力に、魔法耐性は低いと思わせるパーティー構成。
これでボスの対応策もはっきりとするんだが、今の子供たちはそれどころじゃなさそうだな。
相手の言動からそれくらいの情報はもらえるようになる冷静さが欲しいんだが、それもこれから少しずつ学んでいけばいいことだ。
しかし、周りが見えていないエルルとブランシェには注意したほうがいいか。
「……あまりいい傾向じゃないぞ」
「ごしゅじん、あいつら、噛みたい」
「あいつら、トーヤを馬鹿にしてる。
リージェ姉たちをいやらしい目で見てる」
「それでもこちらから手を出してはいけない。
あいつらは悪党じゃなくて冒険者だ。
先制攻撃をすれば、悪いのは俺たちになる」
ぐっと堪えるふたり。
だがここを進まなければ先には行けない。
一度エントランスに戻って入り直せば別の30階層へ行けるかもしれないが、そうはならない可能性も高い。
それに、こんなことで逃げていては、今後の行動にも支障が出る。
小声ではあるが、はっきりと俺は言葉にした。
「その度に避け続けるわけにはいかないだろう?
慣れようとは言わないが、感情をある程度は抑える必要があるんだ。
飛びかからずに対処ができる方法、たとえば威圧をあてて相手の言動を無力化させられる手段があればいいんだが、今のふたりには少し難しいかもしれないな」
まぁ、あまりにひどければ、俺が威圧で黙らせればいい。
高々2、30人の冒険者程度、静かにさせるのに5分とかからないだろう。




