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空人は気ままに世界を歩む  作者: しんた
第十二章 静と動
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石だろうと鉄だろうと

 飛び上がる直前、一瞬のうちにストーンガーゴイルを切り伏せるフラヴィ。

 元々素早い子ではあったが、ブランシェが短剣を持ってからは影が薄く感じられた。


 だが、もとよりこの子の持ち味は速度だ。

 その点、俺のスタイルと非常に良く似てる。

 風のような速さで敵に一撃を加える戦い方だ。


 それもすべては俺の知識と技術から影響を受けているが、体力の低さとブランシェが持つ身体能力の凄まじさにこれまで隠れていた。

 26階層に来てからは岩石を連想させるような魔物が現われた。

 それはこの28階層でも同じだが、ここにきて対応策が取れたのは大きい。


 ストーンマンも倒せなかったこの子の筋力ではガーゴイルだろうと変わらない。

 しかし、特殊な武器たったひとつで戦況が激変した。


「どうだ?」

「これ、とってもすごいの。

 なんでもきれそうなの」


 そう言葉にするフラヴィの顔色は明るい。

 これまで倒せなかった魔物に思うところがあったんだろう。

 ある意味ではこの子の実力で倒したことにはならないが、そんなもの修練次第でどうとでもなるから、今はこれで十分だ。



 結局、インヴァリデイトダガーはフラヴィが持つことになった。

 見つけたのはブランシェだし、どうするかを決めるのも任せたが、ストーンガーゴイルに攻撃が通用すると分かるや否や"これでみんな一緒に戦えるね"と満面の笑みで答えた子に、俺たちは頬を緩ませた。


 これなら来た道を戻った甲斐もある。

 それにこの子達の絆を再確認できたみたいで、俺は嬉しかった。


 そこからはこれまで通りの戦い方が続いている。

 29階層を歩く魔物、ストーンエルクを確実に倒す子供達に頼もしさを感じた。


 相手は2メートルはあろうかというヘラジカの魔物だ。

 主にユーラシア大陸では"エルク"と呼ばれているそうだが、俺にはその違いが分かるほどの専門的知識はない。

 これも"言語理解"スキルが自動翻訳しているだけで、実際には別の魔物としてこの世界では広まっているのかもしれないな。


 光の粒子となって消えるストーンエルクを見ながら、俺は言葉にする。


「問題ないみたいだな」

「ふむ。

 武器ひとつでチームの安定感がこれほど変わるのか」

「フラヴィの攻撃をそのままダメージとして受けている。

 石だろうと鉄だろうと、それは変わらない可能性が出てきた。

 あの武器はレジェンダリー寄りのユニークアイテムなんだろう。

 そうでもなければこれほど凄まじい効果を持つとは思えない」


 そもそも相手の効果を消失させるだけでも凄いのに、その上ダメージを無属性攻撃として与えるなんて、確実に並みの武器を超える。

 もっとこう、30階層まで攻略ができる付呪がつけられたものならまだ分るんだが、まさかこれほどのアイテムが手に入るとは予想外だった。


 それを見つけた子は、しきりに鼻で何かを探り続ける。

 どうやら他にも宝箱を見つけるつもりのようだが、これほどの武器がそう簡単に見つかるとは思えない。

 それこそ秘法級の短剣が手に入っただけでも運がいいとしか言いようがない。


「隠された宝箱なんて、滅多に置かれてないと思うぞ」

「んー、アタシもそうだとは思うんだけどね。

 やっぱ見つけたら、わくわくするでしょ!?」


 どうやらこれも、この子なりの楽しみ方みたいだな。

 戦闘中は鼻で何かを探ったりはしないし、自由にさせてあげるか。


「でも匂いは覚えた!」

「宝箱のか?

 俺にはまったく分からないが、中身とは別の匂いがしてたのか?」

「もちろんだよ!

 ダガーとはまた違う金属の匂いだよ!

 ほんの少しだけ甘い匂いがするんだー!」


 またこの子は、よく分からない表現をする。

 本当にそういった匂いなのかもしれないが、俺に分かる日が来るとも思えない。


 まぁ、見つけたら見つけたでブランシェの意欲が上がるだろうし、こう迷宮を進み続けるだけだと飽きそうな子だからな。

 そういった刺激も時には必要なのかもしれない。


「……にしても、デカいな」

「かなりの北方に出現すると聞きますが、まさか石造のようなエルクを目にするとは思ってもみませんでした」


 角まで再現された、そこそこ精巧な石造りのヘラジカだが、これだけ大きいのに加えてあの巨大な角は攻撃力もそれなりに高そうだ。


 残念ながら振り上げるか振り下ろすか、それとも突進くらいしか角の使い道がなさそうだし、あれじゃあ子供たちの修練相手には役不足だろうな。


 やはり硬いだけの敵じゃ、何も学べなさそうだ。

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