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空人は気ままに世界を歩む  作者: しんた
第十二章 静と動
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心の優しさ

 さて、残るはフラヴィなんだが。


 本音を言えば、この子がいちばん特殊だ。

 俺の知識と技術を受け継いでるってだけでも状況をややこしくしているし、それを扱うには色々と必要不可欠なものが多い。


 心技体のうち技だけが突出しているフラヴィには、まず体力をつけてもらうことが絶対条件なんだが、この子の幼い体ではそれも限界がある。

 魔物の姿の時よりも体力が伸びているのは疑いようもないが、それでもブランシェと比べれば3分の1が妥当だろうな。

 あの子もさらに体力が増えてるから、今のフラヴィでも休息を定期的に取ることで迷宮を攻略する分には大きな影響もなく歩けるようになっている。


 しかし、それでも低いと言わざるを得ない体力の低さを改善するには、やはり時間を必要とするのは間違いない。


 これまで"静"と"動"の技術を一切使っていないから助かっているが、心も幼いフラヴィが使うには時期尚早としか言いようがないだろう。

 このまま技を使えば知らず知らずのうちに体力を使い切り、戦闘中にかくんと膝が落ちて動けなくなるかもしれない。


 子供たちの中でいちばん技術が突出していながら、いちばんの不安定要素を抱えている、なんともバランスの悪さを感じるが、それも年齢と共に成長してくれるはずだから今はそれほど無茶をしなければ大丈夫だろう。


 真面目なフラヴィの性格を考えれば、将来的には心技体すべてをバランス良く伸ばすことで、パーティーの生存率すら極端に底上げするようなチームの要になるのは疑いようもないんだが、まずこの子に必要なのは"時間"だ。

 ゆっくりと無理なく成長してくれるなら、今のこの子にはそれ以上を望まない。


 ……でも、この子はそれを話すと、悲しい顔をするようになっている。


 たとえ技を使わなくても、体捌きは俺に近い動きをする。

 もちろん、フラヴィの個性と自分にできることを優先して行動できる子だから、そういった意味では俺の動きとは随分と違うこの子独自の動きではあるが、それも技なしでは限界がある。


 子供たちの中で、いちばん安定感があるのは確実だ。

 この子がいてくれるだけで、ブランシェとエルルの大きな助けになっているし、魔物の相手もこれまで危うい場面を見たことがないほど圧倒してきた。


 だが同時に、この子にはふたりのような突出したものが見られない。

 ブランシェほどの強靭な筋力はないし、魔法はエルルのほうが遥かに上だ。

 せめて"静"の下位技を使えば戦闘でも光るんだが、この子はブランシェとエルルが体得するまで使わないと決めている。

 これまでずっと3人一緒に行動してきたし、抜け駆けするみたいで嫌なんだな。



 問題は、フラヴィの心にもある。


 この子は優しすぎる。

 俺なんかとは比べ物にならないほどに。

 本来、戦えるような勇ましい心を持ち合わせていないんだ。


 そう仕向けてしまったのは俺だ。

 俺が強引にフラヴィを戦いの世界へ引っ張り込んでしまった。

 "世界を一緒に旅するため"だなんて理屈を、この子に強制してしまった。


 その証拠に、フラヴィは俺に甘えなくなっている。

 ピングイーンの姿の時は素直に甘えてくれていたが、人の姿になってからは大人になろうと頑張り続けている。


 これがいい傾向だとは、とても思えない。

 子供が大人になりたいと背伸びをするのとは明らかに違う。


 幼い体を必死に動かして、それでも上手く扱えなくて。

 もどかしくて、それでも前に進みたくて必死に頑張り続けている。

 戦いを好むフェンリル種であるブランシェとは、本質がまるで違うはずだ。


 ……まただ。

 また何か、そわそわする……。

 なんなんだ、この感覚は……。


「……ぱーぱ?」

「あぁ、ごめんな、フラヴィ」


 少し考えすぎていたようだ。

 子供に心配されるなんて、親として良くないな。


「フラヴィは俺が持つ技術と知識をある程度受け継いでいるから、将来的には俺と同等か、それ以上に強くなれると考えてる。

 いずれは"動"系統最上位技の"覇"も使いこなせるどころか、奥義すら体得できるようになるだろう。

 ブランシェにも言えることだが、戦闘に水属性魔法を取り入れながら戦う方法を確立できれば、俺とも違う"フラヴィが思い描くスタイル"が見えてくると思うよ。

 パーティーの要は中衛だ。

 そこにフラヴィがいてくれるだけでも、チームの安定感がぐっと増す。

 最前衛はブランシェに任せ、様々な状況にも瞬時に対応できる"万能型"の剣士になれるのは確実だと思っているし、フラヴィの真面目さと心の優しさがあれば、俺よりも遥かに強くなれる可能性がある。

 体力の低さは時間が解決してくれるし、技術も現段階では申し分ない。

 その中でも光るのは、フラヴィが持つ"優しい心"だと俺は思ってるんだ。

 扱う技術がどういったものか、使えばどうなるのかを正しく理解し、必要以上の力を振りかざすことのない優しい力として使ってもらえるのが十分に分かっているから、俺は安心して知識を教えられるんだよ」


 もしかしたら、この子のほうが先に"奥義の最奥"へ到達するかもしれない。

 フラヴィのような優しい子が辿り着けたりするんだろうな、とも思える。


 だから、今は無理をすることはないんだ。

 頑張りすぎることは、かえって良くないんだよ。


 それをしっかりと教えていかないといけないな。

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