置いて行かれたような
しょんぼりとするフラヴィとエルル。
自分たちだけブランシェに置いて行かれたような気持ちになっているんだな。
「大丈夫。
ふたりの理想像も見えているよ」
「あたしもブランシェみたいに強くなれるの!?」
「あぁ」
手放しで喜ぶエルルと、安堵するフラヴィ。
とはいえ、彼女たちも相当特殊だからな。
道場にいた頃に教えてた経験は、あまり役に立たなさそうだ。
「ふたりの理想像は、ブランシェとは随分違うんだ。
エルルは魔法が得意だから、それを活かした戦い方がいいと思う。
当然、相手が近づいてきた場合の対処は必須だ。
いざとなればブランシェ並みの速度が出せないと、危険な状況になりかねない」
それを手にできなければ、悲しいことになる可能性が高くなってしまう。
だがリージェのような威力の攻撃魔法を放つことは、エルルの性格上難しい。
それは決して悪いわけではないが、一撃必倒をするほうが安全性が増す。
その点、リージェは良く理解している。
そうしなければ悲しいことが起こりうる以上、ためらってはいけない。
俺もそうあるべきだと考える一方で躊躇しているから、彼女のような決断力は持ち合わせていないんだろうな。
エルルはどちらかと言えば、レヴィアに思考が近い。
だからこそ威力の高い攻撃魔法を、これまで一度しか放っていない。
これはこれで問題になりかねないんだが、仲間で支え合えば大丈夫だろう。
この子が持つ魔法技術の高さを最大限に発揮するための方法は、リーゼルが教えてくれたものでそのおおよそが解決する。
体得すれば、恐らくはこの世界でも上位から数えられるほどの強さを手にできるはずだし、そのぶん安全性も格段に向上することは間違いない。
「エルルは魔法での身体能力強化を極めれば凄まじい強さを手にするが、それだけではまだ未熟な強さだと俺は判断している。
大切なのはその先、いや、MPが切れた時の対処法を学んだほうがいい。
それは俺が言葉にしなくてもエルルなら理解できるだろう?
そのために俺が持つ技術である"静"系統の技を体得してもらいたいんだよ。
これらは相手の攻撃を無力化させる凄まじい技術になる。
最低でも"円"と"流"の体得が必須だが、将来的には"静"の最上位技と、"動"の上位技までは覚えてもらおうと考えている。
それさえ揃えば、恐らくランクSクラスの強さを持つ相手が多数いても、単独撃破が可能な力を手にすることができるだろう」
杖術と棒術も学ばせたいところだが、力を使えば武器は必要なくなる。
斬撃を強化できればまた話は変わるし、彼女が目指すもの次第では大きく変更する必要も出てくるが、エルルの目指すべきところはここがいちばん安全だ。
「ここまでの強さを手にできれば、エルルはこう言えるだろう。
"魔法を使えなくなった魔法使いが戦えないと、誰が言った?"ってな」
まるでブランシェのように瞳を強く輝かせているが、冗談混じりに話した言葉を本当に実現することになるのは確実だ。
魔法が使える世界ならではと言えるが、MPが切れた瞬間お荷物に思われるって聞くし、もう一度魔法を使うには睡眠を1時間も取らなければならない。
俺みたいに魔力の自動回復ができるやつなんて"空人"くらいだろう。
アーティファクトなら自然回復系の指輪はあるかもしれないが、探し歩くわけにもいかないから、もっと現実的な攻撃方法を確立させる必要がある。
「魔法で仲間のサポートをしつつ、MPが切れても戦える魔法使い。
肉体的な強化と達人級の技術で敵を翻弄し、圧倒的武力と戦術で敵を制圧する。
"魔術と技術のエキスパート"がエルルの理想像だと、俺は思っているよ」
いつもとは違い、言葉すら出せずに瞳を強く輝かせる。
未来の自分を想像しながら憧れに手を伸ばそうとする意思を感じさせた。
"動"系統最上位技の"覇"はエルルには必要ない。
フラヴィは俺の知識と技術を継承しているから仕方ないが、この子は覚えないほうがいいと俺は思っている。
過ぎた力は身を滅ぼす。
特にあの技は"静"の最上位に位置するものとは違い、極端に扱いが難しい。
正直あんなもの、使う機会は来ないだろうと思えてしまうほどの効果を持つし、ある意味では奥義に該当する力のほうがまだ可愛げがある。
まぁ、ぶっ飛んだ性能を持つって意味では、どっちも使いたくはないんだが。




