どうだった
ブランシェを気遣いながらこちらに戻ってくる3人。
しょんぼりとした真ん中の子の様子から察すると、注意するべき点や危険な行為なども冷静さを取り戻した今なら理解できたみたいだな。
「どうだった?」
俺はあえて訊ねた。
子供たちの感想を聞くのが楽しみに思えたのがほとんどだが、今後の対策が必要になるのかも確認しないといけない。
「ごしゅじん~、あれ、すっごい硬かった~」
滝のような涙を流しながらブランシェは答えた。
あんなものを脛で蹴ろうとするからそうなるんだが、足が真っ赤になったままは可哀想だからヒールを使った。
「ふたりはどうだ?」
「ぱーぱにもらったないふ、きずついちゃうの……」
「魔法は効いたみたいだから、あたしを軸に攻略するのがいいんじゃないかな」
さみしげなフラヴィと、冷静に対処法を考えていたエルル。
フラヴィには悪いが、それは手に入れたダガーで一般的なものだからな。
折れても替えが利くし、それほど気にしなくてもいいんだが。
「武器については後で話すとして、エルルの言うように魔法を軸に攻撃したほうが安定して先に進めるよ」
「ごしゅじん、あれには魔法じゃないとダメなのかな」
「格闘もいい手段のひとつなんだが、蹴りに使った足の場所が悪かった。
通常は足の甲を使うが、レザーブーツだとあまり格闘術には適さない。
本格的に蹴るならもっと頑強な金属が付いたブーツのほうが効率的にはいい。
しかしそうなると、今度はその重さがネックになるかもしれないな。
速度を重視するブランシェには合わないと思うから、単純に蹴り方を変えるだけでも随分と違った威力を出せると思うよ。
そもそも岩を連想するような硬い相手に脛で蹴ろうって発想は、結構危ないぞ」
「うん、そうなんだけどね、なんかこう、イラッとしたんだ……」
しょんぼりと肩を落としながら耳をへにょりと下げる姿は可愛いが、そういった時こそ冷静に対処ができるようになれば劇的に強くなれるんだが、それはまぁ今後の課題としておこう。
「ごしゅじんならあれ、蹴り飛ばせる?」
「蹴り飛ばすことはできるが、倒せるかは実際に蹴ってみないと分からないな」
「ほんと!?
じゃあじゃあ、蹴り方を教えて!」
ぱぁっと明るくなるブランシェ。
敵の硬度を確かめる意味でも一度は戦っておきたいところだ。
蹴り方を教えるのにはまず実践するのがいちばんだが、自分だけ戦うのも待機し続けてくれている大人たち3人に申し訳がない。
ちらりと視線を向けると、想像していたのとは違った答えが返ってきた。
「ふむ。
主の学んできた体術か。
我も体得すれば、今後の助けになりそうだな」
「魔法を重視したいところですが、興味は尽きません。
トーヤさんの技術を見学させていただきますね」
「私は師から色々と学びましたが、期間が短かったこともあって未熟です。
この機会に体術もしっかりと学ばせていただきたいです」
「あぁ、かまわないよ。
今は口頭と見学だけになるが、興味があれば後々教えるよ。
特に回避する技術は"静"と"動"に転換できるからおススメだ」
武器を持って攻撃すると威力が桁違いに上がるからな。
素手で攻撃したほうが加減もしやすいし、対人戦にもいい。
もちろんそれには技術をしっかりと身につける必要があるが、ここにいるみんなは真面目だし物覚えもいい。
中でもレヴィアは格闘術と相性がいい。
持ち前の身体能力を十全に活かせば誰にも負けないだろう。
それこそ極めれば、彼女が毛嫌いしている腐龍も素手で殴り倒せるはずだ。
龍の姿では攻撃方法も限られる。
バリエーションが豊富なのは魔法くらいだろうから、噛み砕くか体当たり、尾による薙ぎ払い、巨体で押し潰すくらいしか思いつかない。
なら、ヒトの姿で体術を体得したほうが遥かに強くなれると、俺は確信する。
広範囲攻撃を一点に集中し、その威力を強化魔法でさらに高めた一撃。
"静"と"動"を極めれば俺よりも遥かに強い、拳ひとつですべてを終わらせられる格闘家の誕生となる。
これは同じ龍種である彼女の知り合いですら到達できない強さになるだろう。
水龍は気性も穏やかで、強さも龍の中では下のほうだと彼女は言っていた。
そんな彼女がすべての龍種の頂点に立てるだけの強さを手にする可能性が見えたが、レヴィア自身がそういったことには興味も示さないのを知っているから、人知れず最強の龍種になるんだろうな。




