違う変化を
今後は泉に人がいればスルーして、別の場所で休息することが決まった。
元々ほかの冒険者との交流を避けるつもりだったし、好感の持てない連中と出会う度に嫌な気持ちにさせられては子供たちの修練に支障が出てくる。
必要以上のトラブルは小さくても避けるべき、というのが俺を含めた大人たちの意見としてまとまった。
これが普通の冒険だったなら"それも経験だ"と言えるんだが、残念ながら俺たちにはそうも言ってられない事情がある。
もとより修練が最優先だから、出会った冒険者との交流を楽しみながら迷宮をクリアするのは、しばらくお預けになりそうだな。
子供たちの疲労感を気にしつつ先を進み、次のフロアである26階層へやってくると、これまでとは違う変化を感じるようになった。
その魔物を視認した子供たちもそれに気が付いたようだ。
もしかしたらっていう曖昧な気持ちもないわけじゃなさそうだが、あれを見るとあからさまにも俺には思えた。
軽く首を傾げながらエルルは訊ねた。
「あれは、石の……小人?
それも1匹だけみたい?」
「ストーンマンだろうな。
ダンジョンの固有種だって聞いてる」
「ふむ。
我にも一般的な魔物としては見えなかったが、やはり特殊な存在のようだな」
「ここで"石"を連想させる魔物が出たってことは、30階層まで似たような魔物で構成されている可能性があるかもしれないな。
あの姿からすると、魔物とゴーレムの中間ってところじゃないだろうか」
ゴーレムはその性質上、気配を感じないと思われるが、ストーンマンからは生命力を思わせるものがあるみたいだな。
魔力感知の修練になるかと期待したんだが、その身からは何も感じなかった。
しかし、魔物がたとえ魔法を使ってきたからといって、魔力感知スキルでもマナの流れを感じ取るようなことはできないかもしれない。
それも修練次第で可能になると俺は踏んでいるが、実際にできるかどうかはやってみなければ分からない以上、時間を費やしても無駄骨に終わる可能性だって考えられる。
それよりも優先するべきは"ステータスダウン"スキルの強化だ。
可能であればⅢまで上げたいところだが、これも数えるほどしか使っていないから、上げ方もいまいち分かっていないのが現状になる。
まぁ、適当な魔物を足で押さえつけながら使いまくれば上がりそうだし、意外と早く上達するかもしれないな。
相手の視界を阻害する"シャドウダーク"と束縛する"シャドウバインド"のふたつは後回しで、相手の能力を極端に制限するスキル強化を最優先にするべきだ。
このスキルは恐らく対処法が存在しないと俺は推察している。
これを受けた相手は効果時間内まで能力を限定しながら戦わなければならない。
それが何を意味するのかはひとつだ。
たとえ英数字ランクⅢまで上げた状態で効果時間が変わらなかったとしても、それだけ弱体化していればすべてを終わらせられる。
相手は何もすることができず、終わりを迎えることになるだろうな。
今後のことを考えながら魔物を観察していたが、それほど強さは感じない。
体長70センチほどの小さな石人形、といったところだろうか。
1匹でいることに警戒を続けるエルルだったが、さすがに倒せないような相手ではないはずだ。
問題は"硬さ"だろうな。
本物の石だとはさすがに思わないが、どう見ても耐久力が高そうだ。
特にこういった魔物の場合、斬撃は通じない可能性もある。
むしろ、刃こぼれじゃ済まないかもしれないな。
「……まぁ、岩石の斬り方ってのもあるんだが、そこそこコツがいるから今は難しいし、まずはあれを普通に倒せるだけの力があれば、ここは十分だと思うよ」
妙な気配を感じ、子供たちを見る。
きょとんとしながら俺を見続けているようだ。
……いや、大人たちも同じみたいだな。
何か変なことを言っただろうか。
思い当たる節がないんだが……。
「……ふむ。
主は岩石が斬れると言ったのだろうか?」
「ん?
あぁ、できるが?」
「そ、それは確かに凄い技術ではありますが、小さい岩……ですよね?」
「いや、70センチくらいの岩壁なら両断できると思うぞ。
さすがに試したことはないから、どれだけ切れるかも正確には分からないが」
珍しく驚いた表情で訊ねたリーゼルに答えるが、別段すごいことは言ってないつもりなんだが。
「と、トーヤが強すぎる理由、ちょっとだけ分かった気がする……」
「70センチ級の岩壁を斬るなんて、魔法のある世界なら修練次第で誰もができると思ってたが?」
「そ、そうなんでしょうか」
苦笑いを浮かべるリーゼルだが、魔法による身体能力強化をすれば誰でも可能になる技術だと俺は思っている。
剣術の腕がなければ武器を壊すだけではあるが、それも角度や速度、タイミングさえ合えばできるようになるはずだし、現に俺でもできるからな。
この世界にいる達人級の武芸者なら、そのくらいはするはずだ。




