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空人は気ままに世界を歩む  作者: しんた
第十二章 静と動
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関わりたくないから

 泉で休憩せずに先へ向かうことを決めた俺たちだが、残念ながら階層の構造上、どうしても冒険者の近くを通らざるをえないらしい。


 声が届くほどの位置に1チーム5人、中央に1チーム6人、泉のそばと思われる場所に1チーム5人の計16名の男たちが泉で休息を取っているようだ。

 いちばん離れている冒険者たちとは20メートルほどしか離れていない。

 はっきりとこちらを視認できる距離の上、手前にいるチームは会話すら聞こえるほど近くにいる。


 結局、完全にスルーはできないみたいだな。

 絡まれなければいいがと思っていたが、どうやらそうはならなかった。

 しかし、あまり好印象を持つこともできなさそうだ。


「ふむ。

 我々は歓迎されていないようだ」

「……なんか、むかむかする」


 涼しい顔で言葉にするレヴィアと、難しい顔をしたブランシェだった。


 ブランシェは身長こそ160センチほどだが、15歳に見えなくはない。

 この世界では大人として扱われているからそういった視線は感じていないだろうが、フラヴィとエルルに向けられたものに強く苛立っているようだな。


 手前にいる冒険者チームが俺たちに気づき、小さく言葉にする。


「……おい、見ろよ」

「正気かよ……」

「まだガキじゃねぇか」

「遊び場じゃねぇぞ、迷宮は。

 なに考えてやがんだ」


 ひそひそと聞こえないように話す冒険者たち。


 他の2チームも俺たちを見つけたらしい。

 各々話をしているが、その大半は唯一の男である俺に対してのものみたいだな。


 嘲りではないが、正気を疑う気配で満ちてる。

 まぁ、小さな子供をふたりも連れてるし、何を言われようと反論できないが。


 フラヴィとエルルがランクA冒険者よりも戦えると言葉にすれば笑われるか、それこそエントランスロビーで通報されかねない。

 迷宮ギルドに報告されても違反行為ではないし、冒険者ギルド側は俺たちに協力してもらえるはずだ。

 問題になることはないだろうが、それでもあまりいい気持ちはしない気配だな。


 その様子から察するところ、精鋭冒険者ですらないみたいだな。

 中にはひがみのような感情が俺個人に向けられているが、知ったことではない。


 ……女性ばかりのパーティーに男がひとりいれば、妬みのひとつくらい持たれても不思議なことではないんだろうか?


 歓迎されてないなら無視して進むだけなんだが、そんな態度も気にくわなかったのかもしれないな。

 向こう側から俺が見えなくなる瞬間、はっきりとした声が耳に届いた。


「……ガキ連れた上に美人はべらせてイイご身分だな」


 その通りだなと、俺は壁越しに納得した。

 思えば自然と仲間になったとはいえ、女性ばかりのパーティーだからな。

 男だけのチームとしては思うところもあるんだろう。


 興味すら示さない大人の女性たちからすると、程度の低い言葉しか出てこないような連中とチームを組むことはないだろうな。


 むしろリーゼルは少し不快感を覚えているようだ。

 珍しいと思う反面、あぁ、こういった連中と関わりたくないからソロ活動をしてたんだなと思えた。


 少なくとも、あのエリアにいた冒険者たち全員と戦っても、リーゼルなら3分以内で片付けられるほどの力量差を感じた。

 初心者から抜けたばかりの冒険者たちだから、それも当たり前だとは思うが。



 フラヴィとエルルを見ると、暗い表情をしながら目線が少し下に向かっていた。


 程度は違うがこれで2連続だからな。

 さすがに考え込むのも仕方ないか。


 静かに手をふたりの頭へ置き、優しくなでる。

 こちらに意識が向いたところへ言葉にした。


「気にしなくていい。

 ふたりがよく頑張っているのを、俺たちは見ているよ。

 それにな、ああいった言葉が出てるうちは大して強くなれない。

 3人みたいに強くなろうとする明確な意思を持たないから、あいつらはまだこんな場所でうろついてるんだよ」

「……うん」

「……ごめんね、トーヤ」


 しょぼくれながら謝るエルルに、俺は"気にしなくていいんだよ"と答えた。


 はっきり言えば洞察力が足りなすぎる連中に何を言っても無駄だろうな。

 ここは25階層の半ばで、多数の素早い魔物と遭遇する場所になっている。


 そもそも、ここまで子供を連れ歩く意味がない。

 いくら弱い魔物がいるとはいっても、物見遊山はとうに過ぎてる。

 幼子を護りながら25階層にくる理由もないことに気が付いていればあんな対応は取らないはずなんだが、残念ながらまだまだ鍛錬不足としか思えなかった。


 俺からすれば、この子たちよりもあいつらのほうがよっぽど子供なんだが、それも俺が気にすることじゃないな。

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