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空人は気ままに世界を歩む  作者: しんた
第十二章 静と動
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牛くさい

 こちらに戻ってくる3人だが、どこか申し訳なさそうな表情を浮かべるフラヴィとブランシェだった。


 その気持ちも分からなくはない。

 しかし、前衛ふたりにすべてを任すのはまだ無理だろう。

 どうしても隙間ができる上、そこを狙うのはそれほど難しくない。


 問題は後衛のエルルに敵を通したことじゃない。

 それよりも、その後に取ったふたりの行動だ。


「俺が言わなくても理解してるみたいだな」

「……うん」

「アタシもフラヴィも、あの時すごく焦ってた。

 あれじゃ回りも見えないし、もっと危ないことになってたかもしれない」

「あたしなら大丈夫だよ!

 それにほら、あたしも魔物の接近に対処できないといけないし、あれはすごくいい経験になったよ!」


 ふたりをフォローするエルルだが、さっきの行動はそういう意味じゃないんだ。


「それとこれとは別問題なのも、エルルなら気が付いてるだろ?

 フラヴィもブランシェも冷静さを完全になくしていたから、たとえ他に敵がいても背中を向けていたんだ。

 俺はそこを注意しているんだよ」

「ぅ……」


 言葉に詰まるエルル。

 正面に敵を捉えつつも、ふたりの行動は視界に映っていたからな。

 フラヴィとブランシェの表情が何を意味しているのか、そしてあの状況がどんな結果を導きかねないか、この子がいちばん理解しているはずだ。


「突発的な状況でも周囲が見えていなければ危ない。

 でも、その経験ができたことはとても大きいと思うよ。

 さすがにあれは相当焦ったみたいだし、次はしっかり周りも気にしながら行動すればそれいいんだ。

 それに、そういった時のために俺たちがサポートに回っていたんだよ」


 ぽんとふたりの頭に手を置いて、優しくなでる。

 この子たちは賢いから、同じ轍は踏まないだろう。


 それでいい。

 いや、その経験をしたことに意味がある。

 今回の戦いでは隙も見せたが、それ以上の収穫があった。


 しかし、それと同時に20階層程度では修練にすらならないと知った。

 唯一ボスのミノタウロスだけはそこそこ歯応えがあったが、鈍重極まる斧を振り回すことばかりの魔物と対峙し続けても修練にはならない。


 となるとここよりも奥、30どころか40階層よりもさらに下層へ降りなければ修練すらできないかもしれない。

 それに子供たちですら相手にならない魔物で、俺たちが鍛えるのは難しい。

 いっそ俺自身がみんなの相手を努めたほうがよっぽど力になれるだろう。



 ……正直、誤算だ。

 迷宮の魔物がここまで弱いとは思っていなかった。


 これほどなのか、この世界の住人の弱さってのは……。

 この感じだと80階層まで本当に行けるかもしれない。


 ……"攻略組"と鉢合わせるのだけは避けたかったが、この調子だと本気で面倒なことになりそうな予感しかしない。


 それに、俺たちの修練も満足にできていない。

 まだ2日目ではあるが、リージェとレヴィアも早めに修練を始めたいし、リーゼルに至っては口頭での話しかまだ教えられていないからな。


 可能な限り先に進むべきか、それともいっそ大きめで人の出入りが少なそうな小部屋を見つけて修練を始めるべきか、そろそろ決断したほうがいい。

 "無明長夜"の扱いにも慣れておきたいし、"覇"がどれほどの威力を持つのかこの目で見極める必要もある。


 やるべきこと、やらなければならないことが多すぎるし、時間も限られてる。

 いざとなれば俺ひとりのパワープレイでごり押しながら進む方法もなくはないが、子供たちのストレスが溜まるだろうし情操教育にも良くないと思える。

 こういった場所は、仲間と力を合わせて進むことに意味があるからな。


 どうするか悩んでいると、静かに見守っていたリージェの声が耳に届いた。


「あの斧は突き刺さったままのようですね」

「……あ、ほんとだ。

 あれってドロップ品、なのかな?」

「ふむ。

 確かに落下(ドロップ)したものだな」


 ……上手いことを言われたが、俺は突っ込まずに言葉にした。


「敵が持っていたものでも倒すと消えるって聞いたぞ。

 ということは、あれは俺たちが手に入れてもいいってことだろうか?」


 ちらりとリーゼルを見ると、彼女は笑顔で答えた。


「確か、ミノタウロスは角や牙の他に武器も落とすと聞いたことがあります。

 とはいえ、あれだけの大きさともなると、並みの腕力では持つだけでも難しそうですね」


 その通りだな。

 それに、これだけの超重武器を振り回せるのは……いや、3人もいるな……。


 レヴィアはもちろん、ブランシェとリージェも持てなくはないか。

 俺も力を使えばいけなくはないが、斧なんて持ったこともないからな。


 いっそ斧の部分を切り落とし、槍の状態にしたほうが遥かに使いやすい。

 それなら棒術や杖術としても使えるから、幅広く技が出せるんだが。


「念のため聞くが、誰か武器として持ち歩くか?」

「んー、アタシ、重い武器は好きだけど、あれならごしゅじんに買ってもらったハンマーのほうがずっといい。

 ……それに、なんか牛くさい……」


 なんだよ、その表現は……。

 いやブランシェだし、その価値観は"肉串計算"と同じで理解できないだろうな。

 どうやら大人たちも理由は違えど不要だと思っているみたいだな。


「ふむ。

 我が武器を振り回すと、大事になりそうだな」

「重そうですし、歩くのに影響が出そうなので私も大丈夫です」

「まぁ、そうだよな。

 とりあえずインベントリに入れておくか。

 このままだと消えるらしいし、売れるかもしれないからな」


 地面に突き刺さった大斧を収納するが、たぶん売れないんじゃないだろうかとも感じている。

 一応レアドロップ品だと思うんだが、使う者が非常に少なそうな武器に価値が付くとも思えない。


 ある意味コレクターアイテムとして……扱われるとは思えなかった。

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