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空人は気ままに世界を歩む  作者: しんた
第十二章 静と動
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異質な強さ

 一気に距離を詰めるブランシェとフラヴィ。

 先手を取ろうと大斧を振り下ろすも、鈍重な攻撃に当たってやるほどこの子たちは遅くない。

 振り上げた瞬間にはもう別の場所に移動しているふたりを探そうとも、動きの遅いミノタウロスでは見つけるのも困難のようだな。


 背中と右脛に一撃ずつ綺麗にダガーを入れた。

 同時に相手の視界と逆方向の死角に向かう。


 やはりこの子たちに必要なのは実戦経験だ。

 特に前衛ふたりは戦えば戦うだけ強くなっている。


 だが、ブランシェは体の使い方がぎこちない。

 戦闘を経験するたびに良くなってきてるが、まだ巧く扱えていないな。


 フラヴィは体力さえ付けば、ある程度修練は落ち着くか。

 そうなれば俺の技術を体現させるだけで、今よりも遥か高みに到達する。


 ……いや、それはまだ早いな。

 この子は体が小さすぎるから、使わないほうが賢明だ。

 今できることを繰り返しながら成長を見守らないと危ないか。


 警戒を続けながら指示を出すエルルだが、この子も戦闘の回数をこなすたびに的確な指示が出せるようになっている。

 冷静に、何よりもふたりを混乱させないよう短い言葉で丁寧に。

 しかし魔力は溜めたまま、イレギュラーを見過ごさずにいつでも魔法壁を出せる準備は怠っていない。


 ……すごいな。

 いくら鈍重極まる大斧だろうと、当たればどうなるかを考えれば恐怖心すら襲い掛かってくるのが当たり前と言える状況で、これだけ冷静にふたりは回避しつつ攻撃をしっかりと当て続けている。

 それも確実に入る一撃を的確に与えるだけじゃなく、何よりも安全性を重視した戦い方をしてるな。

 これは俺の教えを守っての行動ではあるが、実戦でそれが出せるかと言えば必ずしもそうだとは言えないし、この子たちが子供であることを考慮すれば明らかに異質な強さにまで成長を遂げている。


 これはもう、ランクA冒険者チーム以上の強さにまで到達しているな。

 あくまでも3人での話ではあるが、年齢と経験を考えれば十分すぎる強さだ。

 ここまで成長しているなら次のステップに移っても問題なさそうだ。


 ……しかし、問題点も見えてきた。


 ひとつはフラヴィの体力の低さ。

 これは年齢と種族を考えれば当然だし、これ以上を望むとかえって危険だ。

 だからこそあの子は、"護るための強さ"を求めてしまうかもしれない。

 誰かのためにと必死になって足りないものを埋めようと努力するだろうが、今のフラヴィでは長時間の戦闘継続は不可能だし、する必要もない。


 フラヴィはここにいる誰よりも優しい子だ。

 同時に、家族のために努力をする子でもある。

 そしてそれを身体能力の低さが邪魔をする。

 ここに俺は危機感を覚えてしまう。


 この子は無茶をする子ではないが、必要とあらば限度を超えた力を引き出してしまうんじゃないだろうか。


 それが"いい力の使い方"だとは、とても思えない。

 この子にはこの子に合った力の出し方があるはずだ。

 人の姿を取ってから成長を一切見せていないことを考えれば、これ以上の急成長は良くないとも思える。


 ブランシェも人の姿になってからは成長していない。

 そもそも俺の"特殊成長"スキルの真価もまだ分かっていない現状では答えなんて出るものではないが、少なくとも人の形を取った時点で成長は落ち着いていると見るべきだろうか。


 答えも出ない曖昧な自問自答に意味があるとは思えない。

 今は戦闘に集中するべきだし、いつでも飛び出せるように警戒するべきだ。


 ……なのに、なんだこの感覚は……。

 これまでこんなこと、感じた記憶がない。

 妙にそわそわした、浮き足立っているような……。


 ……何だ。

 俺は、何を感じている……。



 周囲のどこに敵がいるのか把握ができないミノタウロスは、大斧を振り回す。

 広範囲攻撃を出す前に警戒していたふたりは一撃を入れてその場を離れた。

 怒りにも似た咆哮をあげるも、そんな程度で子供たちは止まらない。


 こんなこと言いたくないが、もっと恐ろしい目に遭っているからな。

 それに"無明長夜"の威圧すら超えられないものに怯むわけがない。


 だがミノタウロスは右足を振り上げ、強烈に地面を踏みつけた。

 まるで地震のような大きな揺れを巻き起こす動作に、ふたりは面をくらう。


「……まずいな」


 直線状にいるエルルに向かい、全速力のミノタウロスが襲い掛かる。

 あの位置とタイミングじゃ、フラヴィもブランシェも戻れないな。

 焦るふたりも追いかけようとするが、さすがに間に合わない。


「ここまでだな」

「待って!

 あたしに任せて!」


 呟きながら出ようと足に力を込めると同時に、エルルは強く言葉にした。

 確かに後衛のエルルも接近してきた敵の対処ができなければ危ない。

 前衛ふたりが優秀でこれまで突破されることは一度もなかった。

 ある意味ではいい訓練になるんだが、果たしてこれほどの敵を相手に任せても大丈夫なのかと俺はためらった。


 しかし、エルルは常に敵を見据えていた。

 覚悟を感じさせる、とても強い気配が彼女から溢れている。


 2本の頭角による鋭い突進が幼い子に迫る。

 これだけの巨体が襲い掛かっているんだ。

 恐怖心を抱いても何ら不思議ではない。


 それでもエルルは、敵を視界から外すことなく攻撃の準備を続けた。


「これが! あたしの! 全力全開!

 "猛火よ、破裂しなさい(フレア・バースト)!!"」


 両手を前に出し、魔法を発動するエルル。

 練り上げ続けた魔力を一気に開放し、ミノタウロスを吹き飛ばした。


 5メートルほど後方に飛ばして地面を転がらせる。

 巨体がごろごろと転がる姿は、中々に衝撃的だった。

 途中手放した大斧が地面に突き刺さり、敵はそのまま消失した。


「――ぃよしッ!!」


 確実な手応えを感じたんだろう。

 いつも以上に気合の入るエルルは両手を胸の高さまで上げ、拳を握り込んだ。

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