好意的な
楽しげに話をしていた彼女たちはこちらに視線を向けた。
ギロリと瞳を光らせるその気配は悪意のようなものではないようだ。
むしろこの感覚を記憶している俺は、それが何なのかをはっきりと理解した。
あの毒物事件の際、バルヒェットの広場でキュアを使える冒険者に協力を仰ぎ、力を貸してくれたひとりであるシャンタルさんが向けていたものと酷似している。
ぞわりと背筋を凍りつかせる感覚は、忘れようにも忘れられない。
そんな視線を、今度は3人から感じさせられていた。
思わずその場から全力で逃げたくなるような獲物を狙う目に、斯くも女難の相とは恐ろしいものなのかと再認識してしまう。
つま先から頭まで電気が流れるという、アニメでしか見たことのない経験をしながらも冷静に意識を保ち続けた。
「……へぇ。
イイ男、捕まえたじゃねぇか……」
「……アタシらにもちょっと味見させろよ……」
「……はじめまして、ベティーナよ。
少しお姉さんとお話しましょうか……」
瞳を光らせながらじりじりと擦り寄る女性たちに、肉食獣を強く連想する。
あぁ、このままだと違った理由で戦わないといけないな、なんて思っていると、レヴィアとリージェが俺の前に出ながら言葉にした。
「その辺りにしてもらおう」
「トーヤさんを怯えさせるような言動は慎んでいただけますか?」
怯えてないと反論できなかった俺だが、こんなところにも弱点があったんだな。
日本では高校生だったし、言い寄る肉食系女性と接点を持つこともなかった。
これも俺の弱点だとはっきりしたところでどうやって克服していいのかも分からないし、威圧で下がらせるわけにもいかない以上、対応が非常に難しい。
……そうか。
だから彼女たちが前に出てくれたのか。
そうでもしないと喰われると思ったのかもしれないな。
現に喰われていた可能性も……いや、それは考えないようにしよう……。
「チッ! わーったよ!」
「つーか、子持ちっぽいな」
「あら、むしろ私は歓迎よ?」
……ひとり危険な思考をしてる女性がいるな。
この人は気をつけたほうがいいかもしれない。
「まぁ、まだ20階層だし魔物も強くねぇけどよ、さすがにガキンチョ連れ歩くのは危ねぇと思うぞ?」
「待てコルドゥラ、そいつら普通のガキじゃねぇ。
……なるほどな。
そんでここまで来れたってことか。
随分すげぇ男を見つけたんだな、リーゼル」
にやりと不敵な笑みを浮かべるバルバラ。
気配を読んだような感覚はなかった。
これは彼女が持つ洞察力のひとつだろうな。
「そうか。
力で叩き潰すんじゃなくて、遠心力を巧みに使った剣士か。
筋力に物を言わせた戦い方ではなく、舞うように大剣を振るうんだな」
「……へぇ。
アタシの戦い方を見ずにそれが分かったやつは、お前が初めてだよ」
言葉遣いが少しだけ柔らかくなったな。
……むしろ好意的な目も怖いんだが……。
本音を言えば、すぐにこの場を離れたい気持ちが押し寄せる。
残念ながら扉はひとつだから、それも難しそうだな。




