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空人は気ままに世界を歩む  作者: しんた
第十二章 静と動
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なるべく帰らないほうが

 18階層をクリアする手前でタイムアップとなった。

 盛大に音が鳴り響くブランシェの腹を合図に、今日の攻略は終了だ。


 とはいえ、道の真ん中でキャンプを張るのはあまり良くないだろう。

 手前にあった小部屋に戻り、行き止まりとなる奥で野営の準備を始めた。


 通路のほうが訓練にはなるが、そのぶん危険も伴う。

 必要以上に危機感を持たせ続けると疲れるだけだし、初めから飛ばしても仕方がないからな。


 幸い、この場所なら魔物が出現しても対処がしやすい。

 周囲は壁に囲まれてるし、通路もひとつで見通しがいい。

 ついでに地面もごつごつしてないからしっかり休める。


 エントランスロビーに戻ることも考えたが、現段階では逢うと良くない人が多いから、このひと月はなるべく人との接触を避けたほうがいいかもしれない。


 ディートリヒたちも攻略を続けているはずだ。

 彼らが無理をするとはとても思えない。

 ある程度迷宮に潜ったら宿屋に戻るだろう。

 "攻略組"が通る可能性も高いし、俺たちを見つければ面倒な勧誘を受けるのは目に見えているから、なるべく帰らないほうがいいかもしれない。


 ラーラさんとディートリヒたちが合流している可能性も捨てきれない。

 手に入れた魔導具を優先して売ってることも考えられるから、現状を説明するのも苦労が目に見えている。


 彼らはいい人たちすぎるからな。

 必ず俺の力になろうとしてくれるだろう。

 ……事後報告をすれば逆に怒られそうな気もするが、恩人を危険な目に遭わせるよりは遥かにいい。


 まぁ、東西南北のどこからダンジョンへ潜ったかも分からないし、俺の予想では同じ階層でも数百は別の場所があるだろうから、迷宮内で逢う可能性なんて限りなく低いとは思うが。



「それにしても、薬ばかりが出たな」

「そういえば、素材と思われるものは出ませんでしたね」

「良さそうなものは黒鉄鉱石ひとつだけみたいですね。

 やはりゴブリンが落とすアイテムとしては、相当珍しかったのかもしれません」


 薬の小瓶も、ライフとスタミナを小量回復させる程度のものだった。

 回復薬・微は10階層までで、以降は小が出続けているところから判断すると、魔物の強さで薬の性能も上がっていくみたいだな。


「宝箱も6個開けたけど、どれも普通の武器や回復薬と魔晶石だったね」

「まぁ、そんなもんじゃないか?

 いきなり青い宝箱を見つけても驚くだけだし、十分だと思うけどな」

「でもでも!

 やっぱり木箱以外も開けてみたい!」

「お肉入ってる?」

「ふむ。

 希少な部位の肉が出るのではないか?」

「しもふりッ!?」


 目を輝かせるブランシェには悪いが、宝箱に入ってる肉なんて腐っていそうなイメージが俺にはある。

 できれば普通の生肉や生野菜を魔物からドロップすると嬉しいんだが。


「……そういえば、迷宮に動物は出ないんだな」

「どうなんでしょうね。

 私も聞いたことはありませんが調べたわけでもないので、もしかしたらという期待は持っていますよ」

「動物がいると、何かいいことあるの? ごしゅじん」

「肉が手に入る」

「動物を探そう」


 真顔で即答するブランシェに笑いながら、俺たちは日常に戻る。

 地下に潜ってるって話だけど、場所自体が特殊なのかもしれないな。


 空気もまったく淀んでいないし、温度と湿度も快適だ。

 本当に不思議な感覚を覚えるが、空が見えないだけで遺跡を探検している気持ちになる。

 そういった意味でも心労を感じさせない仕様になっているのかもしれないな。


「しかし、ブランシェの腹は正確だな。

 日々静かに過ごしていた我からすると、特質的なものを感じる」

「そうなのかなぁ。

 アタシとしては普通にお腹が空いてるだけなんだけど」

「"体内時計"って言って、鍛えれば体のリズムを調整できるようになる。

 朝になると目が覚め、夜になれば自然と眠くなるのもそのひとつだ」

「なんだかすごい特技にも聞こえるけど、あたしにもできるのかな?」

「できるようになると思うぞ。

 それにはバランスのいい食事と適度な運動、規則正しい生活が必要になるが」


 ……魔物を蹴散らしながら迷宮を進むことを"適度な運動"と呼ぶのかは置いておくとして、食事と規則正しい生活はなるべく心がけている。

 俺みたいに18を過ぎれば緩やかになるはずだが、この子たちはまだまだ小さいからいくらでも成長できるだろう。


 もしかしたらブランシェあたりは、俺よりも身長が伸びるかもしれないな。

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