いっそ清々しく
泉を素通りするべきか悩んだが、別パーティーと会わずに攻略は続けられない。
ここで逃げたところでたいした意味もないし、下層へ降りれば降りるだけ冒険者と遭遇する機会は増えていく。
仕方ないなと半ば開き直るように、休憩場所となる泉へ足を踏み入れた。
冒険者は1チーム6人で、20代後半2名、10代後半2名、10代半ば2名の男性たちで結成されたパーティーのようだ。
年季が感じられる胸部金属鎧を身につけ、片手剣と槍を地面に置いた剣士がふたりと、両手剣と片手剣に革鎧の冒険者が2名ずつ、か。
これである程度の予測はついたが、事はそう単純でもなさそうだ。
こちらを視界に捉えると休息していた男たちの気配が変わった。
……どうやら困った連中と遭遇したみたいだな。
投げかけられた言葉に、思わず足を止めてしまった。
「おいおい!
ひょろっちいのが綺麗どころを連れまくってるぞ!」
「ぎゃははッ!
おまけにガキ連れてダンジョン探索とか、舐めすぎじゃね!?」
「マジかよ!?
あんなちっこいガキにダガー持たせてんぞ!?
まさかこんな場所で爆笑するとは思ってなかったな!?」
こちらを指さし、高らかに笑う男たち。
その姿に何も感じない俺は冷静に視線を向けていたが、どうやらふたりだけ連中に反応した子がいたようだ。
明らかに不快な表情で相手を睨みつけるエルルとブランシェ。
相手の挑発に乗る必要なんてないんだが、苛立ちは抑えきれなかったみたいだ。
「……なんも知らねぇ坊主に優しい先輩が忠告してやるから、ありがたく聞けよ。
ハーレムしたいお年頃なのは分かるが、ダンジョン舐めてると……死ぬぜ」
「ぶはッ!!
おい真顔で言うのやめろ!!
俺を笑い殺す気かよ!!」
「笑って死ねる人生って素晴らしいよな、ボクちゃん?」
一拍置いて爆笑する男どもに思わず感心する。
よくもまぁ止まらずに人を嘲られるもんだ。
とても俺には真似できない心持ちだな。
いっそ清々しくさえ思えてしまった。
悪党相手に今の言葉を使って挑発できないだろうか。
いや、行動を起こさせるには言葉が軽薄すぎて通用しないか。
なら普通に重めの低い声色と威圧を込めたほうが効果的か。
……なんて、考えている場合でもなさそうだ。
すでに感情が爆発しそうなふたりに、俺は穏やかな声色で訊ねた。
「ふたりとも、先に進めそうか?」
「……え? う、うん、まだ魔法は使えるけど……」
「アタシも大丈夫だけど、その前にあいつら噛んでいい?」
「ダメだよ」
「うー!」
明確な意思を伝えるブランシェだが、冷静に俺の許可を取るところをみるとまだ大丈夫そうだと安心できた。
大人たちは何事もなかったかのような表情でこちらへ視線を向け、頷いた。
やはりリーゼルを含め、物事を冷静に判断できる仲間がいると安心する。
その場を離れる俺たちに背後から追加の言葉が投げかけられ、歯軋り音を出している子の頭をなでて落ち着かせる。
ぴんと直立している耳をへにょりとさせるが、怒りの感情は抑えきれなかった。
まぁ、悔しいと思う気持ちも分からなくはないんだけどな。




