赤い宝箱
魔晶石を受け取り、インベントリに入れる。
随分と問題点が見えたゴブリンだったし、これの価値は低いだろうな。
他にドロップ品はないようだ。
正面奥に出現した薄青色のゲートを進む。
その先は20畳ほどの部屋になっているようで、中央に赤い宝箱がひとつと奥には薄青色のゲート、背後には薄緑色の非常口があった。
横に並びながら目を輝かせて箱を見る子供たちへ、俺は言葉にした。
「3人が頑張って手にした宝箱だ。
折角だし、みんなで開けるといいよ」
「いいの!? ごしゅじん!?」
「ああ」
同時に喜ぶ子供たちを微笑ましく見守る。
小さなフラヴィを中心に、3人でゆっくりと箱を開けた。
「わぁ、いっぱいだねー」
「ちっちゃいけど魔晶石がごりごりしてるよ、トーヤ!」
「他は何かが入った小瓶に……なんだろ、この綺麗な石」
摘むようにして手に取るブランシェ。
透明度の高い、薄緑色の小さな結晶体。
3センチくらいの大きさで、荒削りの原石にも見えた。
小瓶と結晶の鑑定を行ってみる。
【 回復薬・微 】
体力をわずかに回復する。
とても小さな傷なら治せる。
【 帰還の水晶 】
迷宮の外に出ることができる水晶。
手に持った状態で帰還を願うと使用可能。
部屋にいるすべての仲間に効果がある。
「"鑑定"スキルによると、回復薬と帰還用アイテムと出てる。
回復薬は……21本みたいだし、ひとり3本もらえるみたいだな。
魔晶石も小さいとはいえ、換金すれば2万ベルツ分くらいはありそうだ」
「おぉー!
10階層すごいね、ごしゅじん!」
「ボス討伐の報酬だし色々もらえてるみたいだが、回復量は微々たるものだから傷薬程度と考えたほうが良さそうだ。
帰還用アイテムは持っていることで安全性は増すが、どちらもこのダンジョン内でしか効果が得られないものらしい。
5階層ごとに戻るゲートは置かれているそうだが、逆に言えば2~4、5の道中、6~9階層と、不測の事態に陥る可能性も考えられる。
持っているだけでも精神的な安心感に繋がるし、ありがたいアイテムだな」
「ふむ、確かにその通りに思える。
使う機会は来ないほうがいいとも言えるが」
「そうだな。
俺もそう思うよ」
レヴィアの言うように、これはあくまでも緊急脱出用アイテムとしての役目が大きいし、そんな機会は来ないほうがいいに決まってる。
「じゃあさ、この石はトーヤに持ってもらおっか?」
「うんっ」
「そだね。
アタシだと、ポケットから落ちちゃいそうだし」
「ブランシェもフラヴィもいっぱい動くから落ちちゃうかもね」
「持つのは構わないんだが、俺ばかりに判断を任せきりってのもどうかと思う。
そういった意見はなるべくしてもらう方向で頼めるだろうか?」
大人たちに視線を向けながら確認をする。
優柔不断にも思われかねないが、俺ひとりに頼りきるのは危険だからな。
「わかりました。
とはいえ、私はトーヤさんほどの判断力もありませんので、何か異変を感じたら報告するくらいしかできないと思いますが」
「我も理解したが、判断が曇ることもあるだろう。
リージェと同じく警戒を続けながら進む程度になるが」
「私もですね。
冒険者の知識として助言くらいはできると思いますが、気配を読むことはまだみなさんほど上手ではありません。
危機的状況を判断するのは、トーヤさんが適任かと」
……なんとなくだが、そう返ってくるだろうなとは思ってたよ。
「ねね、トーヤ」
「なんだ?」
「これ、どうしよっか……」
「小粒の魔晶石か。
マジックバッグを持たない一般的な冒険者は、一度戻って換金するんだろうな」
「でも結局お金がじゃらじゃらするんじゃない?」
「迷宮ギルドが預かってくれるみたいだし、そのまま貯金するんじゃないか?
魔晶石を換金して、パーティーで分けた金額を預けているんだろうな。
まだ持ち合わせは大丈夫だし、インベントリに入れておくよ」
必要に応じて換金すればいいものだから収納しておけばいい。
持ち歩く意味もないし、戦闘の妨げにもなる。
いつかまとめてギルドに持っていこう。




