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空人は気ままに世界を歩む  作者: しんた
第十二章 静と動
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大丈夫なんだろうか

 扉に触れた部分から青白い光の線が全体に広がる仕掛けは、中々綺麗だった。

 どことなく近未来的な仕掛けに思えなくはないが、これも恐らくは魔力の類で作動してるんだろうな。


 重々しい音を立てながら両開きに開放された扉の先へ進む俺たち。

 しばらく進むと閉じられて視線を背後に向けるが、これもギルドで聞いていた通りのことなのでそれほど驚くこともなかった。


 入り口となる扉の前に薄緑色のゲートが出現する。

 職員の説明にあったように、危険だと判断すれば戻れるみたいだ。


 フロア中央に赤い光の柱が天から降りるように降り注ぎ、敵の姿が視界に映る。

 その姿を目にした俺たちは、無言のまま呆けるように立ち続けていた。


 現れたのは2メートル級のゴブリン。

 ブランシェが興味を持ったヒュージ種と思われるが、彼女は敵を白い目で見る。

 150センチはあろうかという巨大な棍棒を杖代わりに、息を切らせる魔物の姿がそこにはあった。


「……確かに出たな、"すんごい"のが……」


 そう言葉にするだけで精一杯だった。

 しばらくの間を挟み、俺は言葉にした。


「……なぁ、リーゼル」

「……はい」

「……このダンジョンは、大丈夫なんだろうか……」

「…………」


 答えられないリーゼル。

 仲間たちも無言になり、俺も言葉を失う。


 これまで覇気のないホーンラビットや注意力散漫なヘビィルースター、倦怠感の強いディアにぼんやりと呆けているボアと、しょぼくれた魔物が続いた。

 だがまさかボスまでこんなのだとは、さすがに想定外だ。


「……初心者パーティーがヒュージ種を相手にするのは厄介だ。

 それがたとえ"肩で息をするゴブリン"であっても、巨大な棍棒の振り下ろしを直撃すればひとたまりもないし、攻撃範囲も身長を考えれば相当広い。

 冷静に相手の攻撃を見て回避をしつつ、確実な一撃を入れることが必要だ」


 ……とは言ったものの、眼前にいる階段で息を切らせた爺さんのようなゴブリンに、俺自身思うところがないわけではない。

 しかしボスである以上、倒さなければ先へ進めないことも事実だ。

 残念ながらスルーできるような仕様にはなっていないようだな。


 ちらりと子供たちへ視線を向けるも、やはりと言うべきか集中力を欠いていた。


「どうする?

 俺が片付けて先を急ごうか?」


 挑発的な言葉に意識をこちらに向けた3人は、気合を入れ直す。


「あたしたちが倒すよ!

 フラヴィ、ブランシェ、行ける?」

「うんっ」

「行けるよ!」

「よし!

 それじゃあ"アレ"、試してみよっか!」

「おーっ」

「おー!」


 元気に右手を上げた気合十分の子供たち。

 その姿に安心できる俺たちは、3人を静かに見守る。

 いつでも加勢に出られるようにはしておくが、作戦もありそうだし大丈夫か。


 一気に駆け出し、ヒュージゴブリンの索敵内に入る。

 範囲は約10メートル程度の短い距離みたいだな。

 視界に子供たちを捉えると声を上げて威嚇した。


 だが威圧にもならない粗末なものを放とうと、子供たちは怯まない。

 視線から外すことなく、いつでも発動できるように魔力を溜めるエルル。

 敵の眼前でブランシェは左側に動き、ゴブリンの注意を逸らしたところをフラヴィが右側面へ素早く移動する。


 ……巧い。

 死角をついた行動は、気配を察知できなければ反応すら難しい。

 フラヴィが相手の視界から完全に消えたな。


 敵との距離を詰め、攻撃を仕掛けるブランシェ。

 間合いに入ると棍棒が振り下ろされるが、バックステップで軽やかに避けた。

 がら空きの足元を狙い、フラヴィがダガーでの一撃を通す。


 痛みに視線を背後に向けるが、すでにその場を離れている子は見つけられない。

 相手を探そうと背後を向けたところをブランシェが背中に刃を入れ、怯みながらその場を下がった隙を狙い、エルルは魔法でゴブリンをよろめかせた。

 絶好の隙を見逃さなかったふたりは相手の左右から同時に走り抜け、入れ違うようにダガーを通してその場から離脱。

 エルルの前に戻って瞬時に陣形を立て直し、相手に向かって武器を構える。


 しかし、今の連携に耐えられなかったようだな。

 ヒュージゴブリンは光の粒子になって消えた。


 ことんと地面に落ちる4センチほどの魔晶石。

 後に残るのは静寂のみだった。


「やったぁ!」

「どう、トーヤ!

 今のはいい感じだったんじゃない!?」

「あぁ、みんないい連携だったよ」

「えへへ、ぱーぱにほめてもらえたっ」


 喜びながら3人は右手を合わせ、勝利を喜んだ。


 これまでの経験が活かされた戦い方に嬉しく思う。

 ゴブリンの隙を狙った攻撃は最短距離に近い場所を進ませていたことから、俺が見せた技術もしっかり学ぼうとしているのが伝わった。


 何よりも、相手を見くびらずに戦い終えたことはとてもいい。

 肩から息をしてようと、冷静に攻撃をかわし隙を狙うその姿勢は好印象だ。


 相手次第ではあるが、今の3人なら20階層のボスも任せられると確信した。

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