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空人は気ままに世界を歩む  作者: しんた
第十二章 静と動
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弱くていいんだよ

 これまで2本ほど分かれ道はあったが、どちらも小部屋のような空間があるだけで、問題なく5階層までやってきた。


 冒険者の姿はまだ見かけていないが、ここは完全な初心者用の階層だからな。

 見つければ危なっかしい戦いをしているような姿を目にすることになりそうだ。


 むしろこの世界の住人は、パーティー人数の多さでごり押しながら10階層をクリアしてるんじゃないだろうか。

 これまでゴブリンしか出ていないし、歯ごたえもなければ実入りも少ないとなれば、さっさと先に進みたくなる気持ちも分からなくはないんだが、それはかなり危険な行為になる。

 じっくりと下地を作ってから進まないと、突発的な事態に対応ができない。

 それはすなわち、命の危険すら感じさせることになりかねないんだ。


 少なくともうちの子たちは取らない行動だし、危険な目には遭わせるつもりも毛頭ないが。

 そんなことを考えていると、ブランシェとエルルから訊ねられた。


「……ねぇ、ごしゅじん。

 なんか魔物、弱くない?」

「数も少ないし、一撃で倒せちゃうから練習にならない気がするよ」

「ここは初心者用の階層だから、敵が弱くていいんだよ。

 それに数は少ないが、4階層から敵の位置が若干厄介なものになってる。

 さすがに陣形なんて呼べるようなものじゃないけど、手前のゴブリンを倒すのにもたついてると、後ろにいるやつが合流して混戦になりかねないんだ。

 次に遭遇する敵までの距離も相当離れている上に、これまで出現してきたゴブリンの腕力もかなり弱かった。

 安全に休息を取ることができる点なども考慮すると、なりたて冒険者にはいい練習場所になってるんだよ。

 それに危険だと判断すれば、道を戻るだけで安全に帰れるからな。

 一本道が多かった理由も、迷わずに生還させることを目的としてるんだろう」


 それ以外の細かい理由もありそうだが、正直俺たちには必要のない知識だな。

 エルルの言うように練習にはならないから、先に進んだほうがいい。


「ねぇ、トーヤ」

「なんだ?」

「"腕力もかなり弱かった"って、攻撃を受けてないのに分かるの?」

「ある程度は動きで予測できるよ。

 武器の形状や重さ、攻撃速度や相手の振り方でおおよそは掴めるんだ」

「ふむ。

 それも経験なのか?」

「そうだろうな。

 とはいっても、相手の攻撃をわざわざ受けて確認するなんて危険なマネはできないし、ある程度の力を超えたと予測できれば、それ以上は"すべて危険"と判断するだけで十分だと思うよ」

「なるほど。

 それで、なりたて冒険者にはいい練習場と言葉にしたのですね」

「ああ。

 相手が人型のゴブリンってところも訓練にはいいと思えるよ。

 人の姿だと色んなことができるって、フラヴィもブランシェも思わないか?」


 ふたりもそれは感じていたようだ。

 もっとも、その捉え方はまったく別ではあったが。


「そうだねー。

 魔物の姿と違って、今は動きやすくて好きかも」

「ふらびいはね、みんなといっしょにおはなししながらごはんがたべられて、とってもうれしいの」


 ブランシェは鋭い牙があったから色んなものが食べられたけど、フラヴィはくちばしだからな。

 この子の場合は魚の丸呑みか、細かく切った肉や果物をすり潰してあげるくらいしかできなかったし、噛むことができるようになった今のほうがずっと幸せのように見える。


 何よりも意思疎通ができるようになったことは、俺にとってもかなり大きい。

 ブランシェにも思っていたことだが、言葉の重要性を強く感じていた。

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