肉串単位
一本道が続く1階層も終わりが見え、話に聞いた薄青色の柱が正面に見えた。
薄緑色のゲートも右手側に創られ、ここからでも戻ることができるようだ。
結局、ぼんやりとしたゴブリンが続いたが、初めはこんなもんだろう。
いきなり編成を組んだパーティーで襲いかかられても問題だし、極端に強い敵も出てこなかったことを考えると、剣を振ったことしかない初心者はここを何度かクリアすることもできるように戻れる道を創ったのかもしれない。
……誰が、という疑問は残るが。
薄青色のゲートに入り、次のフロアへ向かう。
光が収まると広がる景色は変わらず、気配も大きな変化は感じなかった。
背後には薄緑色のゲートが設置されているので、ここからでも戻れるみたいだ。
今度は魔物の間隔が短くなっているのか、250メートル先にゴブリンが2匹いるようだが、1階層からそれほど変わっていないと思えた。
しかし、ここで油断をすれば後々厄介なことになりかねない。
気を引き締めながら、みんなの意識を高める言葉をかけて先に進んだ。
視界に捕らえたゴブリンを、まるで蹴散らすように倒すブランシェ。
ことんと足元にふたつ落ちた黒い石を拾って戻ってきた。
どうやらこれが例の石みたいだな。
まじまじとブランシェの手に乗っている1センチほどの結晶体を見ながら、エルルは少しだけ首を傾げながら言葉にした。
「そういえばさ、1階層のゴブリンって魔晶石を落とさなかったね?」
「確かにそうだったな。
練習用のフロアみたいだったし、ここから落としていくのかもしれないな。
もしくは、魔晶石がドロップするのも確立なんだろうか」
「1階層でも魔晶石は手に入りましたが、かなり低い確率かもしれません。
私が来た時も手に入ったのはひとつだけですし」
なるほど、やはり確率が低いみたいだな。
だが、見た目と大きさからすると、これに大きな価値があるとは思えない。
「職員の話によると、色や大きさで価値が変わるんだったな」
「それでそれで!?
ゴブリンはどのくらいの価値がある魔晶石を落としたのかな!?」
目を輝かせながらエルルは訊ねるが、相手が相手だけにそれほど貴重な石を持っているとは考えにくいし、強さからすれば魔晶石が手に入っただけでもいいほうなんじゃないだろうか。
「……俺の見立てでは、50ベルツほどだろうか」
「すごいです、トーヤさん。
よくお分かりになりましたね」
驚いた様子でこちらを見るリーゼルだったが、これはただの憶測にすぎない。
それに合っていたからといって、別段凄いことでもないだろう。
だがその金額は、ひとりの子をしょぼくれさせる意味を持っていたようだ。
綺麗な白い耳と尾をへにょりとさせながら、寂しげな声を発した。
「……ふたつ合わせても100ベルツ……。
牛串はもちろん、豚串1本買えない……」
「そ、そうだな」
この子が持つ金銭感覚の基準は"肉串単位"だったな。
計算の仕方を学ばせても理解できなかった子だが、肉串計算に変えてからすぐ覚えてくれたのを、まるで昨日のことのように思い出せた。
一般常識として学ばせたが、ある意味ではそのせいで可哀想な目に遭わせてしまったんだろうか……。
そんなことを考えながら、しょぼくれた子の頭を優しくなでた。




