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空人は気ままに世界を歩む  作者: しんた
第十二章 静と動
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思えなくなっていた

 誰がそんなものを……。

 なんて疑問も彼女は推察していたんだろう。

 続くリーゼルの言葉に、妙な説得力を感じた。


「別名、"女神の箱庭"と呼ばれたこの迷宮は、人智を超えた仕掛けが多数存在し、到達した人々を優しく迎え入れます。

 それを強く感じさせるものが、入り口である場所にも造られているんですよ」

「なるほど。

 それも言い得て妙に思えるな。

 だからこその"大樹の庭(バウムガルテン)"か。

 "生命の樹(セフィロト)"を中心とした町が自然と造られていったんだな」


 これだけの大都市が生まれたのは、とても自然なことに思える。

 迷宮から得られる恩恵が、それこそ"無限の光"を意味しているんだろうな。


 当然そこには努力と実力が伴うことは間違いない。

 だが、命を懸けるだけの価値が、この場所には確かにある。


 そしてそれは、魔性とは呼ばれないほどの優しさと、慈しみすらも感じさせる。

 そのひとつがダンジョンから脱出できるアイテムや、専用に創られた薬か。

 ボス部屋からも逃げられるような仕掛けに、はっきりと善意を感じるほどだ。


「これが迷宮、か」


 ぽつりと呟いてしまったが、それが意味するところに気付かないはずがない。

 そもそもアーティファクトと呼ばれているアイテムが存在する時点で、その可能性を考えさせられていた。


 だとしても、俺にはまだアーティファクトとレガシーの区別はつかない。

 古代に作られた超技術の結晶がそう呼ばれていた、なんてこともあるはずだ。


 結論付けるには情報量が不足しているが、これまで俺は考えないようにしてきただけなんじゃないだろうか。

 ダンジョン内の宝箱や魔物の再配置、ボス部屋、難易度が徐々に上がっていく階層、この広く造られた回廊と下へと続く階段にまで、それを強く感じさせるほどの意味を含んでいるとしか思えなくなっていた。


 いや、スキルやレベル、ステータスに加え冒険者カードに悪事が記録されることを知った時点で、その可能性は頭をよぎった。

 ここではその問いの答えは出せないが、そう考えずにはいられない。


 ……まさか本当に、そんな存在がこの世界にはいるのか?

 人を慈しみながら見守る存在が、この世界のどこかには確かにいるのか?


 "世界を越える"なんて、人にできるわけがない。

 なら、俺は人智を超えた力を持つ存在にこの世界へ導かれた。

 それをどこか確信するような感覚を、俺は覚えていた。


 しかし、まるで意図が掴めない。

 なぜ俺をこの世界に降り立たせたのか。


 もちろんこれは、そうだと確定した話の先になる。

 実際に神や女神と名乗るような存在がいたとして、無関係だってこともある。

 俺がこの世界にいる理由も、こうして世界を歩いているだけでは掴めないだろうから、実際に逢う必要が出てきたとみて行動をするべきなのかもしれないな。


 人が神に逢う方法なんて簡単な話じゃないし、実現できるかもまったく分からないとしか言いようのない、雲を掴むような話にしか聞こえないが。


 だが、もしかしたら迷宮の最深部に何らかの痕跡があるかもしれない。

 それくらいしか現在の俺には推察が立てられないが、今はいい。

 まずは目先の厄介事を終わらせてからの話になる。


 友人や恩人との再会も、迷宮を攻略するのも。

 すべては無事に解決してから、ゆっくりとすればいい。

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