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空人は気ままに世界を歩む  作者: しんた
第十二章 静と動
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取るべき道を

 ヴィクトルとの会談も終わり、俺たちは俺たちの取るべき道を進む。

 あとはリーゼルの意思を確認したいところだな。


「それで、リーゼルはどうする?

 ふたりは一応、バウムガルテン冒険者ギルド所属の職員として残るんだろ?」

「私はそうさせていただきます。

 戦うことよりも、事務職のほうが向いていますので」

「アタシは諜報活動するっすよ。

 ここは大都市っすから、まだ知らない場所も多いっす。

 ついでに有名店で甘いものでも食べてくるっすー!」


 両頬に手を当てながらくねくねとする姿に知人を連想した。

 フィリーネさんの苦労が手に取るように分かる気がする。


 思わずため息をついていると、リーゼルは答えた。


「私はトーヤさんたちと迷宮で訓練をしたいと思います。

 未熟なところがはっきりと見えていましたし、きっと必要になるでしょうから」


 その感覚は俺も持っていた。

 えもいわれぬ不安な気持ちや、恐怖に近い感情を。


 まぁ、暗殺者なんて恐ろしい存在と関わるんだ。

 それも当然だと思えてしまうが。


「必要とあらば、すぐにこちらへいらしてください。

 ヴァイスさんのお名前を出せばここに来れるよう、手配済みですので。

 先ほどお渡しした連絡用魔導具は常にお持ちくださいね」

「わかりました。

 俺たちは準備を整え、迷宮に潜ります」

「ヴァイスっちなら大丈夫だと思うっすけど、迷宮入り口にいる専門の職員に色々聞くといいっすよー。

 想像してるのとは結構違ってたりするっす」

「そうなのか?

 いや、あらゆる面で地上とは違うか。

 そうさせてもらうよ、ありがとう」

「なはは!

 素直に感謝されると、背中がムズムズするっすー!」


 体をよじらせるルーナに思うところはあるが、こういうタイプは何か口を出せば違う形で返ってくることを俺はすでに学んでいる。

 あえて突っ込むこともないだろうな。


 テレーゼさんに渡された連絡用の魔石とその使い方を教えてもらい、俺たちは来たるべき時に備えて準備を始める。


 やるべきことはとても多い。

 ひと月では覚えきれないほど、子供たちに教えたいこともある。

 最低でも魔力による身体能力強化を体得できれば、ある程度は形になる。

 子供たちなりに覚悟もできているみたいだし、あとは技術面で補強できれば時間稼ぎには十分だ。


 その間に俺がすべてを終わらせる。

 当然、子供たちに触れさせるつもりなんて毛頭ない。


 これはあくまでも保険。

 あらゆる可能性を想定してのことにすぎない。



 挨拶を済ませ、ギルドマスターたちと別れた俺は、2階へ向かう階段を下りながら言葉にした。


「まずは家具を揃えようか」

「……え、家具、なの?

 食料品じゃなくて?」


 思ってもいなかった言葉だったんだろうな。

 面白いくらいはっきりと目が点になるエルル。


 そんな彼女に俺は答えた。


「食料品も必要だが、まずはみんなで食事ができる大きなテーブルと椅子を買おうと思う。

 これまでは目立つからって理由で敬遠していたが、ダンジョンの奥なら自由に食べられる場所もあるだろ。

 魔物がいる場所で優雅な食事ってのもあれだが、そういった危険な場所でも日常的な行動が取れるようにした方がいいかもしれない。

 のんびりと食事を楽しみながら、けれど周囲には注意を配り、魔物が迫れば瞬時に動けるといいんじゃないかって思ってたんだよ」


 実際に歩いて町を目指すことも多かったし、これは眠る時の話にも繋がる。

 あっちは体得が最優先だったからすぐに覚えさせたが、食事中も気を抜いているようでしっかりと周りが見えるようになれば、安全性が格段に向上することはもちろん、危険な相手の奇襲にも対応ができるようになるだろう。


 これに関しては気配察知と感覚的なものが似ているから、体得に時間をかけることはなさそうだと思えた。


 "言うは易し"なんて言葉があるが、この子たちはすでに周囲の気配を探れる。

 それを食事中も張り巡らせ続けるとなれば難しいが、睡眠中でも無意識にできていることを意識してするだけだから、コツさえ掴めばすぐに体得できるだろうな。



 外に出ると、太陽を感じさせるようなじんわりとした暖かさが肌に触れた。


「きょうもいいおてんき」

「そうだな。

 しばらくはダンジョンに篭るだろうし、今のうちにいっぱい浴びような」

「うんっ」


 満面の笑みで答えたフラヴィの頭を優しくなでると、嬉しそうに目を細めた。


 若干の暑さは感じるが、まだまだすごしやすさがある。

 そう思えるのも湿度が低いからなんだろうな。


 そんなことを考えていると、左斜め後ろから限界を告げる音が耳に届いた。


「うー……。

 お腹すいたよ、ごしゅじん~」

「そうだったな。

 じゃあ、家具屋の前に食事をしようか。

 ギルドに戻るか? それともどこかお勧めの店とかあるか?」

「目と鼻の先に美味しいお店がありますよ。

 お値段もお手頃で、お料理も時間をかけずに出してもらえます」

「そこにしよう!」


 目を爛々としながら即答するブランシェに俺たちは笑いながら、リーゼルお勧めの店へ向かった。




 みんなの笑顔を守るためなら、俺は手段を選ばない。

 圧倒的な武力で叩き伏せるどころか、どんな手を使ってでも必ず勝ってみせる。

 人の命を平然と奪うような人でなしに、遅れを取ったりはしない。


 それを俺は強く、強く誓った。

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