偏る傾向
がやがやと大きく賑わうギルド内。
これまで訪れてきた町と同じ光景が広がっていた。
むしろこの国いちばんの活気を持つと話に聞く都市という点や、ギルド本部の大きさを考えれば、ブロスフェルト以上の人たちで溢れていることは間違いない。
間違いないのだが、これはいささか想定外と思えてならなかった俺は、ぽつりと呟いた。
「……カウンターが5つしかないんだな」
「でもごしゅじん、3つの受付にはカーテンがかかってるよ」
「そうみたいだな。
それに冒険者の姿は食事をしている人を除き、依頼用掲示板の前にはいないな」
「ねぇリーゼル姉、こんなに大きな町なのに、これだけで大丈夫なのかな……」
どうやらエルルも俺と同じことを考えていたようだ。
この国の中でも総人口はいちばん多いと言われるバウムガルテン。
これだけの受付で足りるほど、ギルドの利用者が少ないとは思えないが。
……いや、そうじゃないのか。
もしかして、これだけの受付で十分なのか?
「なるほど、"迷宮都市"ならではってことか」
「はい。
冒険者ギルドの依頼を出されるのは主に一般の方で、その内容も偏る傾向があります。
周囲の魔物を間引くのは主に憲兵隊で、訓練の一環にもなっているのだとか。
アイテム買取は素材を含め、すべて迷宮内で済ませられるようになっています」
綺麗な笑顔で答えたリーゼル。
そんな彼女も何度か迷宮に足を踏み入れたことがある程度のようだ。
ひとりでダンジョンの奥まで行けば、かなり悪目立ちするからな。
必要以上の危険を回避するって意味でも長居はできないだろう。
それほど冒険できずに引き返したんだな。
どことなく寂しさを感じさせるし、迷宮に興味がないわけじゃなさそうだ。
奥にはレジェンダリーだけじゃなく、貴重なユニークアイテムが手に入るかもしれないし、俺個人としては胸踊る場所なんだが、そう感じるのもゲームや小説なんかで知って、ダンジョンの面白さに惹かれているからなのかもしれない。
5つのうち空いている右端のカウンターへやってくると、受付の職員が営業スマイルで対応してくれた。
毎回笑顔で接客できる人ってのは本当にすごいと、心から思う。
正直、俺にはできないし、できる姿も思い浮かばない。
……いずれは自然とできるようになるんだろうか……。
「いらっしゃませ。
よろしければ、ご用件をお伺いします」
「"ヴァイス・ローエンシュタインです。
先日お願いした採集依頼の詳細について伺いに来たのですが"」
「お待ちしておりました、ヴァイス様。
"第3会議室までご案内いたします"」
言い淀まず声色を変えず、何よりも違和感を誰にも与えずに受付嬢は答えた。
流れるような一連の動きに、さすがバウムガルテンギルドと思えてしまう。
立ち上がった女性は受付の引継ぎをして、こちらにやってきた。
「お待たせいたしました。
それではご案内させていただきます」
「あぁ、ありがとう」
ごくわずかに瞳を大きくした女性は、頬を緩ませながら背中を向けた。
いったいどういった人物が来るのか想像していたんだろうな。
思っていたような高圧的なやつじゃなかった、という意味かもしれないが、まさか子連れで来るとは誰も考えてはいなかったはずだ。
……周囲に悪意は感じない。
このギルドだけじゃなく、バウムガルテンに入ってから嫌な気配はない。
油断はできないが、少なくともまだ安全と言えるのかもしれないな。




