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空人は気ままに世界を歩む  作者: しんた
第十二章 静と動
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なりかねないか

 終始放心状態のリーゼルの前へ、静かにデザートを差し出す。

 呆けながら受け取るこの光景を見るのも、彼女で3人目になる。


 思えばリージェとレヴィアのふたりも、初めは同じような表情をしていたな。

 まぁ、正確に言えば教養のあるリーゼルはそれなりに美味しいものを食べてきたと思うが、そうであったとしても心ここにあらずのようだ。


 俺はみんなに渡したデザートの説明をした。


「今日のデザートは、フランボワーズのシャーベットだ。

 子供たちには酒を少なめにしてあるから、それほど気にならないと思うよ。

 大人たちは大丈夫だろうし、通常の分量で作ったから香りも楽しめる」


 これはフラヴィとふたりで歩いていた頃に見つけたラズベリーを使っている。

 この子は幼いこともあって酸味の強いベリー系は苦手だったから、いつかはデザートにしようと思ってインベントリに放り込んでいたものだ。


 氷に関しては安定して出せるレヴィアのお陰で作れるようになったわけだが、何よりも凄いのは食材を凍らせることができるところだな。


 これならソルベやグラニテも作れるな。

 料理にも氷は活かせるし、今度は天ぷらでも作ってみるか。

 いや、衣の材料を冷蔵庫で冷やさないとあの食感は作れないか。


 こんな状況でもなければオーブンのような魔導具も手に入れたいところだが、まずはすべてが落ち着いてからだな。

 ……オーブンがあれば、作れる料理が相当増えるんだが……。


「ん~!

 冷たくて美味しい~!

 トーヤの作るデザートも全部絶品だね!」

「バニラも好きだけど、これも美味しい!」

「酸っぱすぎないか?」

「ううん、とってもおいしいの!」

「そうか」


 子供たち用にラズベリーをシロップに漬けてから作ったから甘さは強めになっているんだが、酸味は完全になくなったわけじゃないからな。

 少し心配していたが、美味しく食べられるようで安心した。


「ふむ。

 芳醇な香りが実に心地良い」

「なんて清々しいお味。

 それに果物とは違った香りがたまりませんね」


 どうやら大人たちにも好評のようだ。

 特にレヴィアとリージェは酒も気に入ってるみたいだな。

 本物の酒を彼女たちに飲ませたことはないが、喜ばれるかもしれない。


 何やら自問自答を続けているリーゼルだが、思えばパティさんも同じような反応をしていたな。


「氷菓子もこの世界じゃまだないみたいだから、真新しく感じるだろ?

 作り方さえ知っていれば誰でも作れるんだが、これもある意味じゃ世界を揺るがしかねないデザートになるかもしれないな」

「……本当に美味しいです。

 お料理も一流店でいただけるものよりも、遥かに美味しく感じられました」


 彼女の言葉に、ふと気になることが頭をよぎる。

 今、リーゼルが話したことからも想像できるように、俺の作る料理は一流料理店で食べられる食事よりも上らしい。

 となると、やはり表立って人に出すことは避けるべきなんだろうな。


「……これも厄介事になりかねないか……」

「私もそう思います」


 俺の呟きに答えるリーゼルだった。


 初めは何気ない所作に異世界人だと知られることがあったくらいだし、これから向かうのは大都市とも言えるほどの大きな町だ。

 なるべくなら目立たないように行動した方がいいと思うんだが、連れている仲間が目立つだけにそこは諦めるしかない。


 せめて俺自身が"空人"だとバレないように気をつけるくらいはした方がいいか。

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