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空人は気ままに世界を歩む  作者: しんた
第十二章 静と動
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ありだと思うよ

 俺の言葉に目を丸くする彼女は、言葉が出ない様子だった。

 何かを考え続け、そう時間をかけずに寂しげな表情に変わった。


 ……まぁ、何を考えているのかくらいは、俺でも分かるが。


「いくらなんでも家に押しかけるような連中はいないから、迷惑はかからない。

 あくまでも"リーゼル"として同行してくれて構わないし、たとえ本名を名乗ったところで俺たちはそれなりに(・・・・・)強いから、言い寄ってくる輩くらいは蹴散らせる。

 他人がいる場合にのみいつも通りに戦えば、悪目立ちもしないだろう。

 それに――」

「そうだよ! 一緒に行こうよ、リーゼル姉!

 あたしたちも一緒なら、ひとりでいるよりずっとずっと楽しいよ!」

「ふむ、確かにそうだな。

 ひとりとは孤独を感じさせる寂しいものだと我は学んだ。

 無理をしても危険だけが付き纏うことになりかねない」

「……ひとりが寂しいものなのは、私も知っているつもりです。

 ひとりよりもふたり。

 ふたりよりもみんなでいることで、できることも増えますから」

「それにごしゅじんの作るごはんは最高なんだよ!

 リーゼルお姉ちゃんも一度食べたらきっと離れられないよ!」

「おねえちゃんいっぱいで、ふらびいとってもうれしいの。

 みんなでいっしょに、ごはんたべよ?」


 どうやらみんなも賛同してくれたようで安心した。

 まぁ、あれだけ懐いていたし、みんながそう言ってくれるのも分かっていたが。


「……言いたいことは大体みんなに言われたが、"英雄の資質"持ちってのは思ってる以上に厄介なことが降りかかるって聞く。

 もし仮に大きな問題が発生した時、ひとりだと何かと危ないだろ。

 なら、厄介事に巻き込まれやすい"空人(おれ)"と一緒に行動するのもありだと思うよ」

「で、ですが、本当にそんな危険な状況に陥った場合、皆さんにもご迷惑が――」

「リーゼルと出会う前から十分すぎるほど厄介なことになってるよ。

 逆に言えば暗殺者が襲いかかる可能性がある以上、この件が片付いてからだな。

 これに関しては推察の域を出ないが、恐らくバウムガルテンに連中の本拠地があると俺は踏んでいる。

 それだけ連中にとって利便性の高い場所だとも思うし、こうして迷宮都市へ近づくにつれ、危険な気配を強く感じるようになってるくらいだ。

 まず間違いなく支部以上の拠点は存在するだろう」


 これは推察に過ぎないが、どこか確信がある。

 何の確証もないが、ただどうにも嫌な気配が目的地の方角から漂っている。

 こんなこと、ヘルツフェルトを出立するまでは感じていなかったことだ。


 ここからバウムガルテンは、馬車でもまだ5日は離れているはず。

 なのに、濃密でおぞましい気配を感じさせる場所に思えてならない。


 迷宮都市の存在をディートリヒたちから初めて聞いた時は好奇心で胸を躍らせる自分がいたが、今はそれよりも敵がいる本拠地のように感じられるようで、その不気味さに離れたく思ってしまうほどだ。


 正直なところ、この街道から先は何が起こってもおかしくはない。

 そんな可能性すら考えさせられる場所を、俺たちは歩いているんだ。

 そう肝に銘じながら、ここからは進む必要があるだろうな。


「まぁ、答えは落ち着いてから聞かせてもらうよ。

 今は何よりも――」

「――ごはんだ!!」


 盛大に話の腰を折ったブランシェに思うところはあるが、これでもかと煌いた瞳を見たら何も言えなくなってしまった。


 さすがのフラヴィとエルルも、ゆっくりとブランシェへ視線を向ける。

 何とも言えない微妙な空気が醸し出される中、俺はブランシェに答えた。


「……そうか……ごはんか……」

「ごっはん! ごっはん!」


 今にも踊りだしそうなブランシェを見ながら、深くため息をつく。

 そんな俺たちを見て、リーゼルはとても楽しそうに笑った。


「いいですね、気心の知れた仲間って。

 みなさんと一緒なら、ずっと笑顔でいられそうです」

「それについては保証できそうだ。

 我も毎日が楽しくて仕方ない」

「ふふ、そうですね。

 私もみなさんと一緒にいて、笑顔でなかった日はありません」


 食事の準備をしながら俺は、姿は変わっても"はらぺこわんこ"は変わらないんだなと、どこか遠い目で空を見上げながら思った。

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