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空人は気ままに世界を歩む  作者: しんた
第十二章 静と動
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どうかご容赦ください

 対面に座るとても人の良さそうな20代半ばの男性。

 軽く挨拶をしてから10分ほどが経っただろうか。

 難しそうな表情というよりは、どう捉えていいのか考え続けているようだ。


 それもそのはずだ。

 こんなこと、信じられる話ではない。

 即答で否定される可能性も考慮していたくらいだ。


 しかし、彼は頭ごなしに否定せず、けれどそう簡単には信じがたいといった自問自答が終わらず、葛藤の只中にいた。

 ようやく答えが出たのは、それからしばらくの時間が経過してからだった。


「……にわかには信じられませんが、多くのギルドマスターが信頼を寄せるあなた方が嘘をつくとは思っていません。

 ですが私自身どう判断していいのやら、結論を出せずにいます」


 そう言葉にしたヘルツフェルト冒険者ギルドマスター代理のフォルツ。

 病欠で不在のマスター、カントに代わり対応してくれている男性だ。


 だが話した内容が内容だけに、鵜呑みにできないのも十分理解してるつもりだ。

 なにせフェルザーに住んでいた龍が陸に上がって村まで出向いただけでなく、この町にまで轟かせたほどの凄まじい咆哮をあげたんだ。

 こんな話を冷静に聞き、判断を下す者がいるとはとても思えない。


「済まないが、我が龍種であることの証明はできぬ。

 もし龍の姿に戻れば、この町を不安と恐怖の底に落とすことになってしまう。

 だが、犠牲になった者たちがいたことだけは、どうか理解してほしい」


 まるで懇願するように、レヴィアは言葉を静かに紡ぐ。


 ……今回の一件は、残念としか言いようがない。

 俺たちにできたことは少なく、結局は尊い命を救うことができなかった。

 それでも、このまま済ませていい問題でないことだけは確かだ。


「……至急、村で行われていた非道についての詳細を調べつつ、周囲の警戒および咆哮を上げたものについても同時に調査を継続。

 結論をすぐに出さず、時間をかけて町民への説明をしていこうと思います」


 これはギルドマスター代理としてはおおむね正しい判断だと思える。

 鵜呑みにせず、しかしそれを冷静に理解した上でそれでも住民の不安が拭い去れないことを彼は知っているんだな。

 彼の立場でできることも俺たち同様に少なく、こう答えるしかないように思えてその先を見据える彼は、ギルドマスター候補の一角として教育を受けているのがよく分かった。


 "不安は去った"

 そんな言葉を町民に伝えても意味のないことだ。

 むしろ反感や不信を買うだけとしか思えなかった。

 そうなれば町の治安が一気に損なわれかねないし、その先に待つのは暴動なのは目に見えている。


 彼の判断は的確で、結論を聞いたとしても憲兵と冒険者を合わせた調査隊を派遣して事の次第を確認させることは必要不可欠だろう。

 その上で村の調査をして貰い、必要な段階を踏んで徐々に町人への説明を行う。


 ……これくらいしか、俺にも方法が思いつかない。

 実際により良い正解があったとしても、現状で出せるものではなかったようだ。


「……すみません、こんな対応しかできずに……」

「いや、悪いのは我だ。

 感情が抑えられなかったとはいえ、周囲の影響を考えずに行動してしまった」


 そう答えるレヴィアだが、心の内は悲痛なものを抱えていた。

 俺たちにも言えることではあるが、彼女の比ではない。

 コルネリアを知り、彼女との時間を何よりも大切に想っていたレヴィアだからこそ、村で爆発するように嘆いたんだ。


 それを俺たちは知っている。

 彼女がどれだけ優しく、命を尊く思っているのかを。

 犠牲になってしまった少女を、どれだけ大切に想っているのかを。


 そういった想いも、フォルツにしっかりと伝わったのだろう。

 レヴィアの言葉を"それは違います"と断言した彼は、彼女の目を見て答えた。


「あなたの行いが誰かに咎められることは、絶対にありません。

 龍と呼ばれた存在があなたのように人の生活環境を侵害せず、恐れさせることなく静かに暮らす者が多いことに私たちは感謝こそすれ、否定するなどできようはずもないのですから。

 ましてやとても言い難い、自身に不利益が生じるどころかその命すらをも脅かしかねないのに、あなたはためらうことなく話してくださいました。

 そんなあなたの存在を疑うことそのものが、失礼に値します。

 人の少女とその両親のために強く嘆いてくださったあなたに感謝を捧げ、今もこうして人のためにと尽力してくださるあなたを心から誇りに思います。

 現在は少々慌しいですがそれも次第に落ち着きを見せ、ヘルツフェルトに住まう人々もあなたの尊い行動と想いを知り、そう遠くないうちに私と同じ気持ちになるでしょう。

 それまでは今しばらくの時間を必要とすることを、どうかご容赦ください」


 ……これ以上ないほどの誠意を感じる言葉だった。

 突拍子もない話をしたにも拘らず、彼は冷静に物事を見極めて判断を下した。


 代理とはいえ、彼もまたギルドを預けられた者なんだな。

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