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空人は気ままに世界を歩む  作者: しんた
第十二章 静と動
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相当甘かった

 がやがやと賑わう町中を進む。

 それは姿形は違えど、これまで幾度となく経験してきたことだ。

 日本だろうが異世界だろうが、そこに大きな違いはない。


 しかし、これほどまで慌てふためいた町民の様子を目の当たりにするとは、思ってもみなかったことだった。

 戦時中のようにも思えるこの異常な光景は、映画の中でしか見たことがない。


 どうやら俺たちの考えは相当甘かったようだ。

 街門守護任務に就いていた憲兵達からも気配で察してはいたんだが、まさかこれほどまでの大事になっていたとは思っていなかった。


 憲兵は隊をなして町を巡回し、町人は道端で不安げな顔色で話し合う。

 店主は店を開けながらも店内を歩き回り、屋台で食べ物を売る者は頭を抱える。


「……ふむ。

 我のせいだな……済まぬ……」

「いや、俺も想定していなかったよ……」


 そうとしか答えられなかった。

 レヴィアの謝意に否定も慰めの言葉も出せず、申し訳なさを感じながらも町の中央を目指して足を進めた。



 ヘルツフェルト。

 総人口およそ30万人の少しだけ大きな町だ。

 迷宮都市からも近いために住居を構える者はそれなりでも、旅人や商人、冒険者が多く行き交うので、クーネンフェルスよりも遙かに大きく感じさせる。


「――じゃあ、なにか?

 魔王が出現したってのか?

 こんな場所の、森の奥地で?」

「わかんねぇけど、その可能性は十分にあるだろ」

「確か200年周期でとんでもない化物も生まれるって聞いたわ」

「……この町、滅ぼされるのかな……」

「冗談じゃない!

 これからだって時に憲兵隊は何してんだ!」

「精鋭を募ってるって話だぞ。

 明日の朝一で出立するんだと」

「はぁ!?

 明日なのか!?

 どんだけ遅いんだよ!

 今にも凶悪な魔物が大群で攻めてくるかもしれないんだろ!?

 なに悠長なことやってんだよ!」

「でもあんな凄まじい咆哮を放つ相手を倒せるとは思えないのよねぇ……」


 口々に言葉を放つ町民。


 それも仕方ない。

 あんな凄まじい咆哮を空に向けて放ったんだ。

 緊急事態だと判断しない方がありえないだろうな。



 町の中央までくると、多くの人で溢れ返っていた。

 それは暴動すら起きる手前のように思えてならないほどの人数だった。

 様々な憶測が飛び交う中、町を捨てることすら考えている者も多いようだ。


「……先に町で報告した方が良かったんだね……。

 ごめんね、あたしが剣を取りに行こうなんて言ったから……」

「それはみんなで決めたことだからエルルのせいじゃないよ。

 まずはギルドマスターにこの件についての報告と、クーネンフェルスのベッカーさんに報告書を送る手配をしよう」


 とはいえ、俺たちの言葉は意味をなさないかもしれない。

 これだけの大事となっているとは俺も思わなかった。


 人波を掻き分け、中央広場の一角にかけられた冒険者ギルドの看板を見つける。

 扉を開けると、今度はフロアいっぱいの冒険者で溢れ返っていた。 

 恐らくはこの町を拠点に活動をしているんだろうな。


 良く見るとカウンターの前には人がいないことに気づく。

 ギルドマスターの指示待ちの冒険者たちなのかもしれない。


 フラヴィを左腕で抱き上げ、エルルと手を繋いで人混みを避けるように進み、ようやくカウンター前までやってこれた。

 受付の奥でせわしなく行き来している職員のひとりを呼び止め、言葉にする。


「すみません。

 "ヴァイス・ローエンシュタインです。

 先日お願いした採集依頼の詳細について伺いに来たのですが"」

「……採集依頼、ですか?」


 いそいそと歩き回っていた女性職員が足をぴたりと止め、こちらに耳を傾けた。

 しかし、どうやら何のことか理解できていないように見え、こちらも戸惑う。


 ……何だ?

 話が伝わってないのか?

 それほど早く町に着いたとは思えないんだが……。


 そう思っていると横から別の職員がやってきて、笑顔で取り次いでくれた。


「ヴァイス様、お待たせしました。

 "第3会議室までご案内いたします"」


 どうやら最初の女性はこの騒ぎで判断できなかっただけのようだ。

 申し訳なさを秘めた気配を纏いながらこちらに軽く頭を下げた。

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