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空人は気ままに世界を歩む  作者: しんた
第十二章 静と動
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人の領域を超えた力

 折角の機会だし、もう少し説明を続けた。

 これもみんなには話しておく方がいいだろうな。


「……はっきり言ってしまえば、戦闘中に相手を掴む必要なんてない。

 そもそも体を回転させてダウンを狙う行為も、一撃必倒の戦いには不要だ。

 これは相手を制したい場合に限って有効な技で、捕縛するために使う。

 逆に敵がこちらを体術で倒そうとするなら、その瞬間を狙って攻撃すればいい」

「た、たしかにそうだけどさ。

 それはトーヤほどの技術があってこそなんじゃないの?」

「単純に攻撃するだけなら、相手が掴みかかった一瞬が最大のチャンスになる。

 エルルの場合は難しいかもしれないが、それを可能とする技もあるんだよ」


 そう言葉にして、俺は地面に手をつける。

 何をしようとしているのかを興味深げに見つめる3人。

 ブランシェも地面に座りながら、己が物にしようと真剣な表情で見守る。

 さすがにフラヴィだけは見当がついているようだが、それでもしっかりと見逃さないように集中していた。


 以前使った時よりもさらにわずかな力を込めて、地に放つ。

 同時に大槌を叩きつけたような音が響き、半径1メートルを軽くへこませた。


「ななな何したのトーヤ!?」

「……そうか、これが踏みつけて穴を開けた技なんだね、ごしゅじん」

「あぁ、そうだよ。

 これが"動"の系統、それも上位に分類される"(ほう)"だ。

 俺があの村で微妙の力を込めて放った技で、修練次第ではある程度離れた場所にも今の一撃を文字通りにぶつけられるようになる。

 他流派では直接打撃を当てずに敵を撃つ"無突(ないづき)"とも呼ばれる技術、いわゆる遠当ての一種とされるが、その威力は比較にならないほど強い」

「……び、微量って、あの時5メートルくらいへこませてなかったっけ……」

「"動"系統の技は力を込める量で激変するものが多いから、匙加減が難しい。

 そういった意味も含めて、冷静に対処ができるようになる"静"系統をみんなに学んで欲しいと思ってたんだよ」


 興味深げに聞いていたレヴィアは納得した様子で答え、リージェも続いた。

 その的を射たふたりの思考に、やはり冷静な大人は必要だと本気で思えた。


「凄まじい効果を持つ技だ。

 これを使えば敵を倒すだけには留まらず、相手との距離を取れるだろうな」

「力加減は難しそうですが、身につければとても助かる技になりそうですね」

「そこだな、この技のいいところは。

 加減を覚えるのは難しいが、一度覚えればある程度は使いこなせる技でもある。

 まずは"動"の下位技"(しゅう)"を体得して、力を集めることが必要だな」

「……力?

 それって魔力とは違うの、ごしゅじん?

 前にフラヴィが使ったキラキラ?」

「キラキラ?」


 首を傾げるエルルたち。


 そうだな。

 それについてもそろそろ話しておくべきか。

 そう思いながら、俺はあの時のことを3人に話した。


 ふたりは魔物の姿をしていた頃だな。

 今はもう懐かしいとさえ思えてしまう。


 フラヴィが右手を煌かせた力。

 優しく木に触れただけで幹をえぐり取り、衝撃は止まらずに後方3メートル先に立っていた立派な木の幹を吹き飛ばした時のことを。


 ……まぁ、お蔭でハンディクラフト用の木工素材が手に入って助かったんだが、それは今話すことでもないか。


 俺の話に目を丸くしたエルルとレヴィア、リージェの3人。

 おおよそ見当がついたって顔をブランシェはしているが、正確には理解できていないはずだ。

 フラヴィはあの時のことを思い出しながら、申し訳なさそうにしてた。

 しょぼくれる子から感じさせる若干のトラウマに、それくらいの認識でいいのかもしれないと思える威力を持つ技について、俺は右手を光らせながら話を続けた。


「これは"動"に系統する技だが、"放"じゃない。

 上位の遙か上とも言うべき最上位技(・・・・)だ。

 名を"()"という。

 威力は文字通りの桁違いで、奥義の一歩手前となる凄まじい威力を持つ技だ。

 この技を使いこなすには日々の研鑽が必要になるが、これをフラヴィが使っているのを見た時、俺はさすがに驚愕どころか鳥肌すら立ったよ」

「……ふむ。

 凄まじい力を感じるが、どれほどのものを秘めているのだ?」

「威力、と呼んでいいのか、俺には分からないよ。

 ……大きめの家を数軒まとめて吹き飛ばして更地に変えるくらいだろうか。

 正直、俺も使ったことがなくて伝わっている話を聞いただけだから、正確には把握していないほど強すぎる技なんだよ……」


 こんなものを使う日は来ないで欲しいと、本気で思えるほどの威力を持つことは間違いない。

 これも師範代には必要となる技術のひとつになるが、なぜこんなものを学ばせるのか今も見当がつかなかった。


 この力は、間違いなく――


「ヒトの子が持つ領域を軽々と超えている……。

 ……そうか、この力を我は感じ取り、(ぬし)には我が斬れると思えたのか……」


 呟くようにレヴィアは答えるが、実際にこれを使って殴っていれば龍種である彼女でもただでは済まなかったはずだ。

 教え通りなら、この技は体の内部を破壊する可能性すら考えられる。

 そんな恐ろしい技に龍だろうと耐えられる姿が俺には想像できなかった。

 たとえ奥義を使わなくとも、彼女の願いに()えられたと思う。


 彼女がコルネリアの名を出した時点で、その可能性はゼロになったが。

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