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空人は気ままに世界を歩む  作者: しんた
第十二章 静と動
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限定した技

 あまりにも早い回転に、目をぐるぐると回したまま地面に転がるブランシェ。

 思わず大人気なかったなと思いながらも、まだまだ子供たちに土をつけられるわけにもいかないと自分自身を正当化していることに笑いが込み上げた。


 これも俺の悪いところだな。

 どうにも勝負となると、本気で相手をしたくなる。

 それにあのままだと地面に叩きつけられていたし、そうなることは良くない。


 この子たちには覚えてもらうことがたくさんある。

 ここで俺がダウンなんか見せたら、子供たちの教育上よくないからな。

 どうせ負けるなら実力で俺を超えてもらわなければ意味がないし、そう簡単に追い抜かれるわけにもいかない。

 ブランシェには悪いが、ここは俺が圧倒させてもらったよ。


「大丈夫か、ブランシェ」

「うにゃあぁ……目がぁ……目がぁぁ……。

 世界がぐにゃぐにゃしてるぅ……」


 どうやらちょっと回転が速すぎたみたいだ。

 威力はそれほどないはずだが、痛さよりも驚きの方が勝ってるんだな。


 今もぐるぐると目を回しているブランシェに聞こえているかは分からないが、放った技について説明を始めた。


「"静"の上位技、"(てん)"。

 あくまでも力の流れを変えてきた相手に有効となる限定した返し技だが、その効果は覿面(てきめん)と言えるほどだったろ?

 この技は攻撃の方向によって変更する必要があるため、体得するには相当の修練をしなければならないが、使いこなせれば戦闘を劇的に安定化させられる。

 ……もっとも、この世界の住人が"返し技"を使ってくるのかは分からないが、致命傷に繋がりかねない地面に倒れることは避けるべきなんだよ」


 大切なことは手取り足取りではなく、この子たち自身に見せることだ。

 今はその意味を理解できずとも、いずれはこのくらいできるようになる。

 ブランシェは力の流れを掴みかけているし、フラヴィはすでに体得済みだ。


 俺を地面に向けたブランシェの攻撃が確実に決まったと思ったんだろう。

 それを返されるとは想定すらしてなかったエルルは、半ば呆れたように呟いた。


「……すごい動き、してたね……」

「まぁ、力の流れをさらに変える技だから、相当強引なものではあるな。

 場合によっては動作も大きくなりやすいし、下手に動くと危険なこともある。

 さっき説明した"一撃必倒"をしてくる相手には、そのまま斬りつけた方がいい」

「そんなこともできるのか?」

「修練次第になるが、現実的には十分可能だよ」


 さすがに驚いた表情を見せるレヴィアに俺は答えた。


「その場合の対処法は、敵がこちらを掴んだ時点で強烈な一撃を入れる。

 相手がこちらに近距離で触れているんだから、確実に剣を通せるよ。

 それなりの剣速は必要になるけど、体へ触れる直前に勝負がつく。

 この際は剣ではなく、ダガーのような軽い武器が好ましいだろうな」


 これが、一撃必倒での戦いになる。

 入れたもん勝ちと言えば聞こえは悪いが、一撃を入れただけで勝敗が決まる。

 掴んだ腕を切りつけるだけでも場所によっては致命傷になりかねない。


 そもそも掴みかかる場合は利き腕が多い。

 両利きだろうと、片腕を使えなくした時点で勝敗は決するだろうな。


 それを頭で理解してるやつは、不用意に体へ手を伸ばしたりはしない。

 だからこそ暗殺者のような存在は危険な相手なんだと、改めてみんなに話す。

 対処法はすでに確立しているが、毒による一撃必殺を狙ってくる可能性は高い。

 そんな危ないやつらとみんなを戦わせるわけにはいかない。


 そもそもこれは、"キュアⅣ"を体得しているから何とかできるといった方が正しいかもしれないんだ。

 この魔法は明らかにこの世界では異質なもので、それはまさに奇跡と言えるほどの効果を見せることは間違いない。

 それが世界に、ひいては俺たちにもたらす影響を鑑みれば、人前では無闇に使わない方がいいスキルなのは確実だろう。


 ……まったく。

 厄介な相手に目を付けられたもんだな。

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