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空人は気ままに世界を歩む  作者: しんた
第十二章 静と動
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戦線離脱

「だっりゃあぁぁッ!!」


 大木槌を豪快に振り下ろし、地鳴りのように周囲へ音を響かせる。

 平原の大地すらも振るわせるその一撃は、地面をへこませるほどだった。


 とても木製のハンマーで出したとは思えないほどの凄まじい威力を持つが、そんな大振りを何度放ったところで当たってやるほど俺は遅くない。

 ……が、瞬時に槌を突きつけ、体のバネを使って回転撃を繰り出す姿にフラヴィの連撃を思い起こさせ、この子が見せた著しい成長に口角が自然と上がった。


 しかし、それでも粗さが目立つ攻撃を素直に受けるわけにはいかない。

 模擬戦をする度に隙が小さくなるブランシェだが、それでもまだまだ拙い。

 遠心力がたっぷり乗った槌に、力の流れのまま"流"を込めた左手の甲で軽く小突くと、ものすごい速度で回転しながら真横に飛んでいった。


「ぅええッ!?」


 涙目のブランシェは両手を前に出したまま武器を拾いに戦線を離脱する。

 直後、彼女の背後に潜んでいたフラヴィが勢い良く突進してくるも、初めから認識していた俺に奇襲は通用しない。


 飛び上がりながら腹に向かって鋭い突きを繰り出す子の右腕を上に誘導する。

 力の流れを変えられ、豪快に縦回転させたフラヴィを優しく抱きとめた。

 いわゆるお姫様抱っこになるが、きょとんとした様子をこの子は見せる。

 どうやら今起きたことが理解できず、思考が硬直しているみたいだな。


「……ぐ、ぬぬぬ……」


 フラヴィを抱えているために魔法を撃てないエルルが後方で悔しがっているが、この状態の俺たちに魔法を放てばさすがに強めの注意をしていた。

 木槌を拾ってきた半泣きのブランシェを確認し、今日の模擬戦は終了とした。


「みんな、隙が小さくなってきたな。

 特に今回はブランシェの動きが良かった。

 3連撃は木槌の大きな隙をなくすにはいいと思う。

 威力も抜群だし、相手への威嚇や牽制にも使えるだろうな。

 初撃に限って言えば奇襲としても使えるかもしれない」

「ほんと!? やったぁ!

 ごしゅじんに褒められたぁ!」


 とはいえ、武器を弾き飛ばされたのは相当焦ったはずだ。

 "流"のように力を流され、武器を弾き飛ばされる可能性もあるってことは、この子も身に染みて理解できただろう。

 次はしっかりと握り締めて槌を振るえば、それで十分だ。


「逆にフラヴィはあまり良くなかったと思うよ。

 たしかに身長差を考えれば飛び上がらなければ届かない場所も多い。

 でも、それは詰まるところ、"隙だらけ"ってことになるんだ。

 空中では簡単に動けないから、そこを狙われたら危険なんだよ」

「……うぅ……ごめんなさい……」


 申し訳なさそうに話すフラヴィだが、いい点もしっかり見えている。


「謝ることはないんだよ。

 これは模擬戦で訓練なんだから、いくらでも間違えていいんだ。

 みんなにも言えることだけど、失敗を改善すればするほど強くなれるんだから、間違えることを恐れずに色々と考えて試してみるといいよ」


 地面に降ろして優しく頭をなでると、フラヴィはとても嬉しそうに目を細めた。


「で、でもでもっ、今回のあたしは、まったくいいところがなかった……。

 ……それどころか何にもできなくて、見てるだけだった……」

「魔法は遠距離支援が多くなるし、撃ち方次第じゃ味方にも当ててしまう。

 だから撃てずに悩んでいたエルルは、ある意味では正しかったんだよ。

 むしろ闇雲に魔法を連発するような使い方はしちゃダメだ。

 前衛のブランシェとフラヴィの動きが左右へ活発に動いていたから、攻撃ができなかったエルルの判断は間違いじゃないんだ」


 俺は魔法に関しては素人だし、そこに戦術的なものを求めればどうしても支援型の魔法が都合よく思える。

 使い方次第でいくらでも応用が利く魔法とはいえ、激しく動き回る前衛を避けつつ敵を狙い撃つことは至難の技と言えるほどに難しいはずだ。

 いっそ、最初の一撃を高火力で放り込み、前衛に繋げた方がいいかもしれない。


「並の冒険者がどの程度の強さを持つのか我には分からんが、少なくともブランシェとフラヴィの動きは相当の速さを感じた。

 あれだけ動き回られると、相手を翻弄しつつ攻撃できるのではないか?」

「そうだな、確かにそれだけの速度を感じたよ。

 だが問題は、その速さで動かれると魔法による支援が難しくなるってことだな。

 ……ふたりなら、後衛での魔法支援を想定した場合、どうやって対処する?」


 興味深げに話を聞いていたふたりの大人たちへ、俺は訊ねた。

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