作為的な何かを
そしてもうひとつ。
見過ごせないことに気がついてしまった。
3つの石碑に刻まれていた言葉、その真意を。
それこそが、ここを造った者が伝えたかった"想い"なんじゃないか?
"10人の連れが、新たな道を切り開くだろう"
"裏切り者はこの世を去り、永久に煉獄を彷徨い続けるだろう"
"黄泉の地へ、老人と共に"
これは、誰に対して残したものなんだろうか。
初めは単純に"剣を求める者へ宛てた謎かけ"だと俺は考えていた。
しかし、それでは腑に落ちない点が多すぎる。
絶大な力を秘めた剣だとすれば、完全に封印してしまえばいいだけだ。
それこそ地中に埋めてしまうことだってできたはず。
まるで誰かを導かんとするような文言。
秘宝を思わせるように行動する意欲を掻き立てる謎解き。
この世界の住人には難解な言語で書かれたヒント。
なぜ、10体の動物像が威嚇する姿をしていた?
なぜ、美しい絵画の中に恐ろしいとも思えるものが半数近くも飾られていた?
そしてなぜ、"黄泉の地へ連れて逝かん"と言わんばかりに先の道を示している?
言葉として違和感がある文法で石碑に書かれたこれまでのものを含め、そのすべてが作為的な何かを連想させる。
もしかして"キューレ洞窟"自体が、この場所を残した者の手中にあるんじゃないだろうかとすら、俺には思えてならなかった。
そもそも今回は謎解きとしても成立していない。
ここにあるものはこの世界の住人に解くことは不可能だ。
それも日本人か、その知識を持たなければ同じだろう。
となると、ルートヴィヒも仲間に日本人を連れていた可能性すら見えてくる。
そうでもなければ、黄泉の方角である"西北"が正解だとは、まず答えられない。
つまり、老人の像が北西に向いているものを石碑寄りの場所で見つけ、そのまま直進するだけとなる。
多数の像は、そのすべてが偽装されたもの。
謎を深読みさせ、答えに辿り着かせないための仕掛けになる。
恐らくはここに限らず、掘って進む強引な方法は不可能になっているだろうな。
それに黄泉の国が西北なのは、"大和から見た日没の方角"だと言われている。
そういった宗教上の教えを異世界人に深く理解しろという方が無茶な話だ。
同時にこれは、封印された剣がこの先に置かれていることを示すだろう。
闇雲に振るってはいけないほどの威力を持つ剣が"安置"されているはずだ。
ではなぜ空人の、それも日本人を待っていたと思わせるような謎を残したのか。
……その答えは、これまでの石碑に書かれているんじゃないだろうか……。
そして始めに"地を切り裂く武具を求めし者に災いあれ"とあったのは、レジェンダリーかそれ以上の等級を持つ金銭的にも非常に価値のある武器をこの世界にいる強欲な者たちに渡さず、逆に"死をくれてやる"という強い意思を示したものだったのではないか?
ここを造った者は、同じ空人しか信用していなかった。
……いや、信頼できなかったのではないだろうか。
そうとしか思えないように、かつての空人が同郷の者へ警告文を残してくれたと考えるのは間違っているのか?
"裏切り者はこの世を去り、黄泉の地へ新たな道を切り開くだろう。
10人の連れが老人と共に、永久に煉獄を彷徨い続けるだろう"
ここを残した空人は、日本人の俺にそう伝えたかったんじゃないのか?
他の誰でもない同郷の者に、真実を知って欲しかったんじゃないのか?
これは極論だ。
こじつけだとも思う。
それでも俺は否定しきれずにいる。
言葉の端々に"重み"を感じるからだ。
"発見者である幸運持ち以外は信用させるな"
これは空人が知っておくべきもののひとつとしてディートリヒが教えてくれたものだが、笑えなくなってきた。
この世界に降り立った空人は、そういった扱いをされてきたんじゃないのか?
軍隊に徴用し、時には圧力と脅迫で従わせて利用するだけした挙句、価値がなくなったと判断されたら危険分子として大義名分の下に処分される。
空人とは、そんな人道とは反する扱いをされることが多いんじゃないのか?
だからこそ、言葉にしない方がいいと言われているんじゃないのか?
少なくともここを残した空人の"無念"さを、俺は否応なく感じさせられた。
仲間と思っていた10人もの悪党に裏切られ、疑心暗鬼と不信感を強く覚えながらも、失意の底でこんな寒々しい場所に剣を安置したとしか思えない。
"永久に煉獄を彷徨い続けるだろう"とは、そいつらに宛てたものじゃないか?
浄罪界とも呼ばれている場所で、罪が償われるその時まで彷徨い続けろという意味に思えてならなかった。




