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空人は気ままに世界を歩む  作者: しんた
第十一章 長い夜
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心のゆとりは必要だと

 綺麗にしたデザートの食器を魔法で乾かしていると、ブランシェは訊ねた。

 それについて今も考え中だった俺としては決めあぐねていた件ではあるが、そろそろ決断した方がいいだろうな。


「で、ごしゅじん、次はどこ行くの?」

「……そうだな」


 言いかけて言葉に詰まる。

 レヴィアの件がある以上、ヘルツフェルトには最速で向かった方がいい。

 今にも調査、下手をすれば討伐隊が編成され、町を出ている頃合かもしれない。

 本来であれば悠長にデザートを食べている場合でもないんだが、最近やたらと重々しいことが続いていたし、心のゆとりは必要だと思えたからそれは気にしなくていいか。


 町に向かうにしても、あと半日は森の中を歩くことになるはずだ。

 森を抜ければ平原になっているらしいし、そこからは目と鼻の先だから真っ直ぐ進めば夜までには着くだろう。


 しかし、その決断を出せずに俺は考え込んでしまう。

 きっとエルルも同じ気持ちだったのかもしれない。

 痺れを切らしたように彼女は言葉にした。


「ねぇ、トーヤ。

 確かここから西の方に例の場所があるんだよね?」

「……まぁ、そうだな。

 正確には西北西だと思うが」

「例の場所?」


 レヴィアが聞き返し、エルルはそれについて説明を始める。

 ルートヴィヒ・ユーベルヴェークが持ち帰れずに引き返したというお宝が、この近くに眠っている。

 これは彼の抱えていた宝物とは違い金銭的にも価値のある武器だと、彼自身が無念にも思える言葉と共に情報を残していた。

 俺が彼と同じ空人だからといって、どうにかできるとも思えないんだが。


 その話を興味深げに聞いていたレヴィアとリージェ。

 知的好奇心が強い彼女たちにはお宝として手に入れるよりも、剣そのものの方が気になるようだ。


「ふむ。

 200年も人知れずに眠り続ける(つるぎ)か。

 実に興味深いと思える我も、中々にヒトの子のような発想ができるみたいだな」

「だとするとその剣は"今も持ち主を待ち続けている"、ということでしょうか?」

「それはどうだかわからないが、剣が意思を持っているとも俺には思えない。

 何の目的で隠されるように置かれているのかも分からないし、町には早急に向かった方がいいとも思う」

「だが、(ぬし)は決めあぐねているのだろう?」


 痛いところを突かれたが、本音を言えばその通りだった。


 フランツからもらった剣は悪くない。

 重さも、長さも、そして切れ味も。

 両刃であることと幅が広い点以外は、それほど気にならなかった。

 ……これまでは、だが。


 暗殺者とこの剣で戦えるのかは相手次第ではあるが、少なくともこの剣で奥義はもちろん、上位技を連続で使っただけでも弾け飛ぶような気がしてならない。


 そもそも日本刀と西洋剣の差にも繋がるが、鋳造と鍛造では違いすぎる。

 フランツからもらった短めのロングソードは明らかに鋳造モノだ。

 父の教え通りであれば、芯の通っていない武器ほど危険なものはない。

 早急に武器を鍛造のものに変えるべきなのは自明の理だ。


 だからこそ、俺は悩んでいた。

 使えないかもしれない武器を確認しにいくべきか。

 それとも迷宮都市へ向かうことを優先するべきかを。


 迷宮都市に行けば、それなりの武器は確実に手に入る。

 だが、"それなり"程度であれば今の剣と大差はない。


 かといって剣を見つめたとしても無駄足に終わることだって考えられる。

 時間をかけすぎれば討伐隊が続々と森に入ってくるだろう。


「……ふと、気になったのだが」

「ん?」


 深く考え込んでいると、レヴィアから思考が固まることを訊ねられた。


「討伐隊が森に派遣されるとして、ここにいる誰が困るというのだ?」

「…………誰も、困らないな……」


 今のレヴィアは人の姿だ。

 彼女を見て龍だと判断するはいない。

 いや、いたらいたで面倒なことになるが、そんなやつがいるとも思えない。


「……調査、討伐隊がたとえ大規模に派遣されたとしても、俺たちには何の実害もないどころか討伐対象を見つけられずに町へ戻り、しかるべき場所にその報告されるだけ、か……?」

「恐らくはそうなるだろうな。

 我はもう龍の姿に戻るつもりなどない。

 故に討伐対象など存在せず、町でこちらが報告をした後に納得してもらえると我は判断している」


 楽観的に思えるこの件ついては、彼女だけでなくみんなで話し合いを続けたが、彼女の意思は硬く、報告する方向で話が落ち着いていた。

 そんな彼女を討伐しようとする者が現れても返り討ちだと公言するつもりだし、仲間に手を出せばただでは済ませるつもりがないことも伝えるつもりだ。


 俺たちはもう彼女の人柄を知っている。

 大切な仲間を易々と傷つけさせたりはしない。


「……ってことはさ?

 あたしたちは剣を取りに行けるってことじゃない?」

「それは……そうだが……。

 誰かが手にできるとは限らない剣なんだぞ?」

「でもでも、試してみなければ分からないんでしょ?

 じゃあ、とりあえず行って、それを確かめてみようよ」


 俺の答えを待つ前に決を採り始めたエルルだが、結果は見えていた。


 賛成5、どちらでもない1。

 まぁ、それならそれで俺も納得できる。

 そこまで急いで町へ行かずに済んだ以上、可能性に賭けるのも悪くない。


 ……いや、インベントリになら強引に入れられるだろうか?

 なんて、使いもしない武器を抱えても意味がないなと思わず笑いが込み上げた。

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