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空人は気ままに世界を歩む  作者: しんた
第十章 人ならざるもの
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ひとつの助言

 周囲を吹き飛ばさんとするような彼女の咆哮は、徐々に落ち着きを見せた。

 ゆっくりと視線を地に向ける彼女に、奴らの動きはどう見えているんだろうか。


 レヴィアの嘆きの叫びは連中に正しく伝わっていない。

 それを"歓喜の震え"と称した大馬鹿者に伝わるはずがない。

 心底怯え、がたがたと震え、ありもしない神を敬うように額を地につけて恐れる連中の情けない姿を見て、彼女もようやく気がついたのかもしれないな。


 連中に救いなど必要もないことに。

 そして何より、手を汚すほどの価値もないことに。


 どこか冷めたような瞳でその光景を見続けていたレヴィアは、強く言葉にした。

 それは強烈な威圧を込めたものだったことは間違いないが、怒りに満ち溢れ、殺意すら抱いた感情とは程遠い、彼女の優しさをしっかりと感じさせるものだった。


(うぬ)らの仕出かした過ちは、その生涯をかけても理解はできまい。

 故に我は、汝らがフェルザーと呼ぶ湖から去ることを選ぶ。

 しかしその前に、コルネリアの両親を引き渡してもらう。

 我が村の建物をすべて吹き飛ばす前に居場所を口にすることを強く勧める≫


 今のレヴィアなら、尾の一振りですべてをなぎ払えるだろうな。

 村の周囲を軽く1周半するほどの巨体だったとは、さすがに想定外だった。

 これでは軽々しく移動などできるはずもなく、湖でひっそりと動かずに過ごしていた彼女の気持ちも分からなくはない。


 そんな俺の考えとは違い、必死な思いで言葉にする村長と思われる人でなし。

 強く震える腕を上げ、指をさして答えるが、それすらも苛立つ仕草に見えた。


「…………あ……あちらの……小屋に…………。

 …………(かしこ)み恐みも(もう)す…………」


 その言葉に深いため息が出たのは、きっと俺だけじゃないはずだ。

 意味が理解できない子供たち3人はさておき、大人たちはそれをある程度理解できているような気配が周囲に溢れた。


 強い嫌悪感を露にしたリージェ。

 温厚な彼女でさえもイラつかせる連中に、ある種の才能を感じさせた。

 巨大さからか気配を感じ取りにくいレヴィアだろうと明確に伝わるほどだというのに、この連中はどうやら人を心底呆れさせることが得意なようだ。


≪……未だ我を神をするか……。

 何を言っても無駄だと悟ったが、ひとつ助言をしよう。

 我が湖から追いやった幼子は、大層悪趣味な(わらべ)でな。

 ヒトの子を半端に噛んでは吐き捨てることを好んでいたそうだ。

 我にはまったく理解できぬが、神と崇めていたものの正体など、その程度だ。

 いずれこの地に戻るかもしれんが、ひとつ分かることがあるとすれば、そやつは湖に降り立った同日に周囲のものを喰らっては半端に吐き出し、その苦しむ様を眺めていたと、楽しそうな声色で話していた。

 それが怒りを抑えきれなくなり、我がやつに殺意を抱いた経緯だ。

 先ほども言ったが、我にはもう手が付けられないほどの力を蓄えている腐龍には関われない故、あとはヒトの子だけで解決してもらう≫


 …………とんでもないことをサラッと言ったな……。

 っていうか本当にいたのかよ、噛むだけ噛んで吐き捨てる龍が……。


 ……いや、今のは聞かなかったことにしよう。

 俺は何も聞いていないし、そんな危険なやつとは絶対に関わらない。


 若干血の気を引かせていると、レヴィアは女性の姿に戻っていた。

 どうやら彼女は龍と人の姿を自在にコントロールしているみたいだな。

 ……まぁ、龍の姿でできることなんて、たぶんないと俺は思うんだけどな。


 持っていたローブを彼女に向かって投げる。

 背後を確認せずに受け取ったレヴィアは身に纏うも、その後姿には形容し辛い想いが隠し切れずに溢れていた。

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